第91話 前世の女は知らない女
「……ねえ、早く出して〜 ミアを救出しに来たんでしょ!」
ミアが喚いている。 俺は、その前を素通りした。
「ねえってば。 え? ……ちょっと、あり得ないんだけど?」
「君は、ずっとここにいるのかい」
エメラルドが、ミアに話しかけていた。 俺は先へ進むーー
「それがね! 変な飛行物体をミアが倒したら、オーガに囲まれて、気がついたらここにいたの! トホホなの」
「へぇ……大変だったね?」
ーー声が遠ざかられない。 後ろでヒョコヒョコとついて来てやがる。
「どうしたんだい。 まさか知り合いかい?」
「……」
俺は、無視した。 この女は、俺を知らない。 今世でミアがどんな人生を送って、ここにいるのかは知らない。
ーーだが、コイツには関わりたくねぇ。
「ねぇねぇ! ここどこ!」
ミアが、俺の袖を引っ張る。 ーー俺は強引に振り払った。
「キャ! ……ちょっと、危ないんだけど。 危うく、尻餅をつくところだったじゃない!」
「悪い奴だよね、コイツ」
俺は、無視を続けた。 コイツらに構っている余裕はない。
「ねぇ、緑のお姉さん! ここは、どこなの?」
「ガランド山脈の……研究施設かな?」
「えぇ。 ミア、結局ガランド山脈に来ることになったの? やはり、ヒロインの宿命から逃れられないの……」
「ふむ。 その言い方だと、ミアはここへ潜る計画があったみたいだね」
ーー好き放題喋りやがって。 俺はモブどもの会話なんて、興味ないんだ。
しかし、ミアが俺の前に飛び出して、手首を擦りながら不満そうに口を尖らせる。
「もっと優しくできないの? ミアは囚われていたの」
ーーコイツの身のこなし。 前世よりも、早い。
「……ねえ」
ミアが、俺の袖を引いた。
「貴方の、名前は?」
「ナナシだよ」
「……どっかで聞いたの! なんだったけ、興味がなかったから、覚えてないの」
エメラルドが勝手に俺の紹介をする。
「……ちっ」
俺は、前方でドヤ顔ポーズをしているミアを蹴り飛ばそうとした。
「あ! 危ないの!」
「いい動きするね、君? ちなみに僕はエメラルドだよ」
「エメラルドは、ナナシの通訳係なの?」
「ハハ。 そんなものさ……」
エメラルドとミアが、俺の前方で会話している。 ーー舐めやがって。
さらに奥へ進む階段を降りながら、ミアが前で騒ぐ。
「ねえねえ、どこ行くの?」
「……」
「ナナシって冷たいの」
ーーうるせえ。
本当に、うるせえ女だ。 前の世界では、こんなに喋らなかった。 一体なにがあったんだ?
ーーはっ。 コイツのことなんて、どうでもいいんだよ!
「ねえ、ナナシ」
「……」
「ミアね、ずっと気になってたことがあるの」
ミアは、階段の途中で立ち止まった。
「貴方、辛そうな顔しているの」
俺の足が、止まった。
「ずっとなの……なにかを抱えている顔」
黒猫は、俺の顔を覗き込んだ。
「もっと、喜怒哀楽しようよ! だって、人生って一度きりだもん!」
俺は、答えなかった。 俺は、人生二度目だからな。




