第86話 クライマックス演出は完璧です? ーーオパール視点
私たちがエメラルドたちの所に慌てて向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。
「なによこれ……」
「あ〜あ。 雰囲気が変わっちゃったね?」
妖精たちは一ヶ所に固まって震えていた。 その周囲を謎の膜が覆っていた。
その中央で、ターコイズが土下座をしていた。 ノームは、そんなターコイズを説教している様だった。
私たちはその様子をジト目で見ていた、エメラルドの元に向かった。
「エメラルド、なにが起こったのよ! めちゃくちゃじゃない!」
「ルビー? ……落ち着いて、どうしてそんなに動揺しているんだい?」
「そんなのスポンサーにキレられて、契約解除どころか、違約金まで払えって、言われるからに決まっているでしょ!」
「スポンサー? ……違約金ってなに?」
エメラルドが動揺した表情で私を見ている。 私も姉さんと同じポーズを取って、意思を表明する。
「……エメラルド。 オパールもあっち側だよ」
「はあ。 そうなんだ……」
引いた表情をしている。 ーーところでアメジストは? まさかの可能性に、震えながら、私は恐る恐る声をかけた。
「アメジストは?」
「……あの門の向こうだよ」
「門って……な、なによこれ!」
ーーそこには、謎の門があった。 まるで別世界への入り口みたい。
「……あの」
その時、妖精が飛んできた。 司会を担当していた妖精だった。 フレイアに向かって、弱々しく話しかけていた。
「フレイア様。 私たち、どうなっちゃうんですか? ……既に、若い妖精は限界を迎えています。 この空間は、私たちにとって有害です」
「……そうね」
「……離れることもできないのかい?」
「はい。 この空間に私たち妖精は、閉じ込められてしまいました。 ノーム様の結界がなかったら今頃、私たちは消滅していたでしょう……」
オニギスの疑問に妖精は答えていたが、その様子からして、あまり猶予が無さそうだった。
私と姉さんは門を見上げる。 巨大な、石と鎖でできた門。 左右に黒い柱が立ちその上部には、竜の顔を模した彫刻。
赤く光る双眸が、こちらを見下ろしていた。
「地獄の門、ね」
フレイアが静かに言った。 門は開いていたーーあの中にアメジストがいるの?
その門から絶えず流れてくる赤い光と、黒い煙。 それが徐々にダンジョンの地形を侵食していく。 紫だったダンジョンが、マグマのように染まる。
私たちはターコイズの元へ向かった。 早く、なんとかしないと!
「……門を閉じることは不可能です。 ガランド山脈もこれで終わりですね」
ーーまるで、他人事の様に、ターコイズが呟いた。 その表情は哀愁に染まっていた。
「待てよ……ふざけんじゃねぇぞ! お前らの茶番劇のせいで、俺の野望が打ち消しだと? 俺はここで夢を叶えるんだ! 余計なことすんじゃねぇ!」
ナナシがターコイズに詰め寄った。 ーー私たちは止めなかった。
「……もう、手遅れなんです。 この山脈も……アメジストも、全部。 ……私も、アメジストがいない世界に用はありません……」
ターコイズは、ナナシに詰め寄られながら、頭の布を外そうとした、その時。
「誰がぅ、いない世界だってゔ?」
「……! アメジスト!」
アメジストが、門の中から出て来た! そのまま、ターコイズとナナシの所に向かった。 そして、ターコイズを掴んでいる、ナナシを睨む。
「……ナナシ、退け」
「はあ? 地獄から生還して、いの一番に復讐か? ……いいぜ」
ナナシは心底不愉快そうに、ターコイズをつき飛ばす。 ターコイズは、アメジストの腕に収まった。
「ターコ!」
「アメジスト……はっ!」
二人は、数秒ほど見つめ合った。 しかし、ターコイズがソッポを向く。
「い、今更。 なんのつもりですか! ……私との約束を忘れたくせに!」
「星と深淵を目指せ……」
「アメジスト?」
「忘れる訳ねぇだろぅ? 俺たちは、運命共同体だぜぃ」
「は、はぅ〜」
アメジストとターコイズがいい雰囲気を醸し出していたーー
「ううぅ。 私、感動したわ」
「これはメロいわね……」
「……っけ。 感動って奴かよ……」
うんうん、最高の雰囲気だよね! ナナシまで、ぼんやりと見てるし。
「なぁ? オイラがおかしいのかなぁ?」
「いや、僕も同じ気持ちだから大丈夫だよ」
後ろでジト目になりながら、私たちの様子をエメラルドとオニギスが呟いていた。
ーーこの二人、不感症なのかなぁ? あのナナシでさえ、感動しているのに。
『うんうん。 感動の場面が撮れた時でクライマックスじゃ! ……後は、これをどうするかのぅ』
その時だった。 ーーゴゴゴ。 ダンジョンが振動を始めた。 黒い霧の噴出が、強くなる。 熱風が吹き荒れ、岩が溶け始めた。 黒い霧が、滝のように流れ出す。
「このままじゃ、全部消える!」
「どうすればいいのよ!」
「しょうがない。 私の出番ね……」
フレイアが、大きくため息をついた。 ーーフレイア?
「ルビー、オパール。 後は頼んだわよ……」
「……フレイアさん?」
フレイアは、門へ向かって歩き出した。 ーー振り返って笑った。
「ファナイから私の代わりに、ギャラをもらいなさい」
「フレイアさん!」
私は、駆け出した。 でも、届かない! 熱風が壁になって、押し返される。
「ねえ、オパールちゃん」
フレイアの声が、炎の向こうから聞こえた。
「あの子に伝えて」
「……っ」
「また会えてよかったって……」
フレイアは、門に手をかけた。 ーーそして、扉と共に消えた。




