第70話 キャスの強制お悩み相談
「これは、よい心地です」
「ミート、それは私の台詞です」
「嫌です、私の台詞です。 ミリィは言ってないです!」
「前から言っているです、キャラ被りなんです!」
ーーミートとミリィのですですコンビが言い争っているわね! ふふ。
「……キャス? このスープになにを入れたの?」
「水と野菜と調味料と、隠し味の愛情よ?」
ラムに対して、私は鍋を掻き回しながら言った。 スープはキラキラしている。
「不満じゃないけど。 なんか、フアフアした気持ちになるよ……嫌なことを全部忘れたような……それで」
ラムは、椀を抱えたまま俯いた。
「……なんか、泣きそうになる」
「泣いていいのよ、おいでラム」
「うん。 キャス……」
ーーああ。 本当のこの子は、こんなに純粋な子だったのね。
また、あの下衆密猟団に苛立ちが募って来たわ。 こんなに純粋な子を捻じ曲げていたなんて。
「みんな、聞いて。 サキュバスの魅了ってね」
私は、全員に聞こえるように言った。
「別に、色仕掛けの技じゃないの。 相手の心の壁を下げる技なのよ」
「壁を……」
「そう。 恐怖も、警戒も、強がりも。 過去のトラウマは全部、心を硬くする壁でしょ?」
私はラムを抱きしめながら、そう言った。
「感情って溜め込むほど、心が疲弊していくものなの」
「……」
「だから。 今は、この気持ちを吐き出して? 私が全部受け止めてあげるから」
ーーラムは寝てしまったわね。 おやすみ、ラム。
「……なるほどね」
リディが呟いた。 ーー貴方も気持ちを吐き出していいからね?
「だけど、同意も取らずに飲ませるのは……」
「取ったら、誰も飲まないでしょ」
「そうね……」
リディは、しばらく私を見ていた。 ーーそして口元を結んだ。
「やっぱり、貴方は……」
「なによ? ……早く、その顔を覆っているローブを取ったら?」
「……嫌よ、私は貴方に合わせる顔はないわ。 じゃあ、また明日……」
そう言って、リディはどこかに消えてしまった。 残念ね。
「じゃあ、言ってやるです!」
「なんです? 私に喧嘩売るです?」
「ミートは私とキャラ被りなんです! 老婆口調のままでいてくださいです!」
「やです。 最近はのじゃ発言が嫌になってきたです。 のじゃあげますです」
「私も嫌です。 ミス・ファナイと一緒の口癖は嫌です!」
ミリィが、ミートに絡んでいる。 あの二人は平和ね〜 それに比べてーー
「……」
私はアゼッタの横に座る。 その表情は無表情。 まるで、いつもの高飛車だった様子が偽りだったみたいね。
「……ごめんなさい」
「なにを謝っているのかしら?」
「……私はあの時、本気でミリィを殺すつもりでした」
「知ってるわよ。 それで?」
「……私は、まだ疑っています」
ーーあらあら、おっかないわね。
「疑ってもいいわよ?」
「え? ……なんで。 嫌じゃないの? 私は貴方たちを狙っているのよ!」
「いいんじゃない? 貴方の役割は必要よ?」
「必要……私が必要……」
私の発言を聞いて安心したのか、眠ってしまったわ。 寝顔がかわいいわね。
「……私も、言いますニャ」
「どうぞ〜 全部、受け止めてあげる〜」
次にバニラが、小さく手を挙げた。
「私、ずっと考えていましたニャ。 ……ナナシのことを」
「ナナシ。 ……噂のあの男ね、それで?」
「あの人は、私を騙しましたニャ。 『願いが叶う』と言って、連れて行こうとして……」
「バニラ……」
バニラは、椀の中を見つめた。
「でも、私。 ……信じたかったんですニャ。 みんなが元通りになるなら。 騙されてもいいと、思ってしまったんですニャ」
「バニラ。 私、思うんだけど。 それって、本当に騙されたのかしら?」
バニラは、顔を上げた。 驚きの表情だった。 私は彼女頭に手を置いた。
「私が、その話を聞いた時。 本当にあるって思ったわよ。 ……ねえ? もう一度でもいいから、信じてみない?」
「……キャス」
バニラも安心したのか、眠りについた。 ヨシヨシ。
「……ふん」
ルーブが、椀を置いた。
「……俺も、なにか悩みを言わないといけないのか?」
「あら、言いたくないの?」
「……」
この寡黙な男が、しばらく黙って。
「ルビーとオパールを助けたい。 ……おそらく俺の勘だが、アイツらはなにかに巻き込まれているに違いない。 俺が助けないと……」
それだけ言って、また黙った。 ーーあら、案外優しいのね?
みんな、それぞれの意思があるのね。 絶対にみんな、上手くいくわよ。




