第68話 心を見透かすサキュバスーーアゼッタ視点
私たちは第二十層に到着した。 第十層や第十五層と同じように大広間ね。
そこも、誰もいない廃墟。 ーーでも、誰かが確実にいた廃墟だった。
「……ここもなのね」
私たちは、足を止めた。 広間に、テントが並んでいる。 規則正しく、整然と。 生活していた痕跡だ。 ーーなのに、人がいない。
「また、これ一体どうなってるの」
「こんなの酷い……」
バニラが、顔を伏せた。 私たちは第二層から、ずっと同じ光景を見てきた。
いい加減、慣れるべきだと思うんだけどーー
「教会に祭壇まである……」
「神秘的です……」
ラムが、広間の奥を指した。 そこには教会と祭壇があった。 こんな場所に教会があることに違和感を覚える。
その上に、分厚い本が一冊。 開かれたまま置かれている。
私は近づいて、覗き込んだ。 エターナルパーフェクト語録?
『永遠なる完全へ』
『我らは不完全を憎み、欠けたるものを愛す』
『満たされぬ器にこそ、神は宿る』
「……なにこれ」
「ふむ。 エターナルパーフェクトの奴らか……」
ミートがため息をつきながら、それをめくった。
「これは、呪物の類じゃ。 ……読めば読むほど、心に入り込むタイプのものじゃな。 厨二病心をくすぐられるのう」
私は、そっと後ずさった。 なんて危険な書物なの?
頭の中で、まだ文字が滲んでいる。
『満たされぬ器にこそ、神は宿る』
ーードキドキしてきたわね。
「……二人とも、何を見てるの? そんな興奮した表情をして。 ……わかったわ。 エロ本ね!」
「「違うわよ!」」
「またまた〜 顔を赤らめているんだから〜」
「駄目なのじゃ! キャスには見せれないのじゃ」
ーー私たちは、キャスの魔の手から、この聖典を遠ざけた。
「キャス、こっち! 食糧があるです!」
ミリィの声がした。 キャス、呼ばれているわよ?
「わかった、すぐに行くわ。 ……後で見るからね?」
私とミートは聖典を隠した。 二人で頷きあった、私たちに友情が芽生えました。
そして、私たちはテントの一つから、山のような木箱が運び出されていたのを目撃した。
「乾パン、干し肉、塩漬けの野菜……」
「うわ、すごい量だね。 何十人分もあるよ」
ラムが、木箱を数えている。
「水もあるわね。 火もあるし……なにか作ろうかしら?」
「キャス! お願いするです!」
「お腹ぺこぺこだよ」
「はいはい。 ちょっと待っててね〜」
私たちはここで寝泊まりすることにした。 第十五層であんなことがあって、それから五層分を休みなしで降りてきたから疲れも溜まっている。
ーー別にあの聖典の続きが、読みたい訳じゃないからね?
ミリィは、まだ本調子じゃない。 ラムも、治ったとは言え一時はボロボロだったからねーー
「……アゼッタ」
キャスが、私の隣に座った。
「問題ないわよ?」
「そう」
キャスは、それ以上聞かなかった。 ーーでも、目は逸らさなかった。
私は、あの時ミリィを殺そうとした。 それを、この人たちは忘れていない。
当然です。 ーーそれが、この集団での私の役割だから。
「……キャス」
「なに?」
「もし私が、また同じことをしたら、どうしますか?」
私は、淡々と言った。
「当然、止めるわよ」
「即答ね。 でもそれがいつまで……」
「テイ」
キャスは、私の頭を軽く小突いた。
「なにを……」
「いい? 私、サキュバスなの。 ……人の欲望を見るのが仕事なのよ」
「……はあ? それがどうしたのよ」
「あの時の貴方から見えたのは、殺意じゃなかった」
「……だったら、何が見えたんですか?」
キャスは、こう言った。
「怯えてる子供よ」
「なにそれ?」
私は、思わず顔を背けた。 この人、本当に。 嫌な特技を持っているわね。




