第60話 ナナシの本名発覚?
私たちはナナシの牢屋を出た。
「腹減ったろぅ。 メシ作ってくらぁ」
「僕はオニギスと話してくるよ……」
二人は、そう言ってどこかへ行ってしまった。 私たちは、休憩することにした。
岩壁に背を預けて座る。 ーー久しぶりに、ちゃんと座った気がする。
そんな私たちの目の前には、先程の白い集団が講談を開いていた。
広間の中央。 白衣の信徒たちが座って、じっと一点を見つめている。
ーー全員目を布で覆っているのに、全員が同じ方向を向いているのが不気味だった。
その真ん中に、水色の髪と目元を隠した女性が立っている。
「……あの人が、ターコイズかしら」
「たぶんね。 アメジストが言ってた特徴と合ってる」
彼女は、まるで伝承を語るように、何かを言っている。
私は、思わず耳を澄ませた。
「ヘリオドール……黄よ、我らを導きたまえ……」
澄んだ声だった。 広間の岩壁に、よく響く声だ。
信徒たちが、それを静かに聞いている。 ーー不気味な光景だった。
「ルビー……赤よ。 その剣を持って悪意を打ち払え」
私は、隣の姉さんを見た。 姉さんは驚いた表情で自分に指を刺している。
「オパール……白よ。 魔術で悪意を撹乱せよ」
ーーあれ? 今度は白、私のこと? 私は、自分の髪に触れた。
「緑よ。 その意思、悪意に染まることなかれ」
ーー緑髪の隊長。 エメラルドのことだよね?
「ターコイズ……青よ。 理を予言するもの、全てを解き明かせ」
ターコイズって、彼女自身のことだよね?
「オニギス……黒よ。 そのしなやかさで、戦場を駆け巡れ」
ーー黄、赤、白、緑、青、黒。
私の背中を、冷たいものが這い上がった。 揃っているの?
「アメジストよ……」
ターコイズの声が、一瞬止まった。
「……えっと。 アメジストか……なんだかなぁ?」
信徒たちが、顔を上げた。 ーー正確には、顔を上げる気配がした。
「紫……アイツは、なんか適当に頑張って」
ーーは? 私たちは、ズッコケた。
「……我ら導かれし者。 黄金のダンジョンを踏破せしもの!」
ターコイズは、そう締めくくって両手を下ろした。
信徒たちが、深々と頭を下げる。 ーー祈りは、終わったらしい。
「……ねえ、姉さん」
「……うん」
私たちは、しばらく動けなかった。 伝承に、私たちがいる。
「でも、おかしいわ」
姉さんは、膝を抱えた。
「あの伝承、どう聞いても古いものよ。 ……何百年も前から伝わってるような言い方だった」
「うん」
「なのに、なんで私たちが出てくるのよ!」
「そうだよね、今、作ったんじゃない?」
「……あら? よく気づいたね」
私たちは弾かれるように立ち上がった。 いつの間にか、信徒たちは散り、広間の中央には、水色の髪の女性だけが立っている。 こちらを向いて。
「ルビーとオパールですよね」
ターコイズは、静かに言った。
「改めて。 ようこそ、第二十層へ。 ……お待ちしておりました」
「……待ってた?」
「ええ。 貴方たちの到来をずっと」
ーー私たちを? 本当に?
「七つの色が揃い、黄金のダンジョンを踏破する時を……」
「七つ?」
私は、指を折った。 ーー黄、赤、白、緑、青、黒、紫。 七つ?
「黄色は? ヘリオドールって誰?」
「それは、ナナシのことです……」
ターコイズは、ゆっくりと牢屋の方を見た。
「ナナシの名前はヘリオドールと言うそうです」
ーーえ? そんなの誰から、聞いたの?
ターコイズは、両手を胸の前で組んだ。
「あとは、時を待つだけ。 道は切り開かれる定めにあります……」
ターコイズは、詳しく答えなかった。 ーー代わりに、こう言った。
「一つだけ、ご忠告を」
布で覆われた顔が、私たちを向く。
「伝承には続きがあります。 ……教団では、口にすることを禁じられていますが」
彼女は、少しだけ声を落とした。
「『踏破せし者、そのうち一人は還らず』です」
「それは誰なの」
「さあ。 私は、伝承を語るだけの者ですから」
ターコイズは、背を向けた。
「食事の時間でしょう。 ……あの脳筋の料理は、まあ、悪くありませんよ」
残された私たちは、しばらく黙るしかなかった。




