第58話 脈打つ絶望の種
「エメラルド隊長さんよぃ。 温泉経営で体が鈍ったのかぇ?」
「……そう言う君は、随分と勝手に行動しているじゃないか?」
エメラルドは腰に手を当てて大男を睨んだ。
――助けられておいて、この態度でいいのかな?
「けぇ。 助けた相手に言う言葉かぁ?」
「感謝はしてるわよ。 その上で聞いてるの」
紫髪の大男は頭を掻いた。
「いやぅ。 早く答えが知りたくてなぅ」
「……なんだいそれ?」
大男の発言に、エメラルドが困惑している。
「あの……もしかして、アメジストさんですか?」
「あぁ? そうだぅ」
「わあ! 生、アメジストさんだ!」
姉さんがそう聞くと、エメラルドは軽くため息をついた。
「ルビー? なんだって、コイツにそんな反応するのかな?」
「えっと、実は姉さんはアメジストのファンなんです……」
冒険者ギルドが発行している壁紙。 ガランド山脈の踏破記録。
そこに毎回名前が上がる一人が、このアメジストって人物なんだ。
特徴は、紫髪の大男。 戦法は、タンク兼切り込み隊長。
その見た目の腕っぷしと、大金槌で、未開の地を開拓して行った、伝説の存在。
ーーそれが、冒険者マニアである、姉さんのアメジストに対する印象だ。
「そうだゅ。 オニギスが言ってたんだがよぃ。 虎が出たとか……」
「ハア。 囚われただよ? 僕たちは、今囚われているの!」
「なんだぇ? ……そいつは、どこだ? ぶ、ったたいてゆぅ!」
アメジストが大金槌を構えて、あたりを見回した。
「……いないよ。 遠くから見ているんだ」
「遠く……? ははは。 なんじゃぅそりゃ!」
アメジストは、そう言って、ガハハと笑っていた。
◇◇◇
そして、誰もいなくなった第十五層に、儂はやってきた。
「フォフォフォ」
崩れた竜の骸を、しばらく眺める。 粉々に砕けたわい。
「……ふん。 自信作だったんじゃがのう?」
儂は、杖の先で骸を突いた。
「数十年もかけたというのに。 あんな、若造魔術士に瀕死状態にされるとは……」
つまらない、若さとは弱さと対でなくてはならないーー
「まあよい。 所詮は試作じゃ。 ……これから、ドンドン作るとするかのぅ」
崩れた竜の腹の下。 瓦礫と腐肉に埋もれて小さなものが、転がっていた。
黒く濡れた膜に包まれた、丸いもの。 それは卵。 それが二つーー
儂は、しゃがみ込んだ。 卵は、かすかに脈打っていた。 ドクン、ドクン、と。 弱々しく、けれど確かに。
「フォフォ。 産んでおったか、一つはこの場に放置で、もう一つは……」
老婆は、それを指で摘み上げた。 卵が、老婆の指の中で脈打った。
「フォフォフォ。 フォーッフォッフォ!」
誰もいない大広間に、儂のその声だけが反響する。
「作られただけの獣が、子を産むかえ。 ……何を残したかった? 何を託したかった? ……死んだら、全て終わりだと言うのに……」




