第56話 ジリ貧の攻防戦
「どうやら、戦うしかないみたいだね……」
エメラルドの声と同時に、腐食竜が動いた。
腐食した巨体が身を起こす。 ーーだけど、様子が変だ。
「ねえ? これって本当に、ニーズヘッグなの?」
「……正確には違うね。 模倣された、ナニカだね」
剥がれかけた鱗が落た。 そこから、ドロドロと黒い血が溢れている。
『ォォォオオオ……!』
咆哮した! 第一層で聞いたあの声はコイツだったの?
「コイツが犯人だったのね?」
「いや……違うな。 正確にはコイツらが犯人だ」
エメラルドがそう言って会話を続ける。
「頭の中を、直接掻き回される感覚。 自分が操られて、正常な行動ができなくなる感覚……常人がこの声を聞いたら大変だ」
ーーつまり、この状況で平然としている私たちは異常者?
「エメラルド……アイツが上に出たら……」
「一面、同士討ちの血だらけの海になるね」
ーーそうだ。 戦うしか、ないんだ。
私は立ち上がった。 掌に、魔力を集める。
「アイスジャベリン!」
氷の矢を産み出して投擲する。 鱗が弾け飛んだ。
「さすが、オパール!」
「いい判断だ。 爆炎系は毒が散布されるからね」
でも竜は平然と立っていた。 取れかかっていた鱗が剥がれただけなのだから。
もともとある傷口が黒く濁っている。 もはや、傷しかないように見える。
「ニーズヘッグをもとにしたナニカであることに喜んだ方がいいのか、悪いのか……どっちだろうね?」
エメラルドが、呟いた。 ーー本当、その通りだよ。
「じゃあ、どうするのよ!」
姉さんが叫んだ。 下手に近づくと腐食でやられる。
「魔法使い一人と、剣士二人か。 重戦士ーータンク役が欲しいよね……」
エメラルドがそう言った。 その表情は誰かを思い浮かべていた、気がする。
「だったら私が、タンク役になるわ! エメラルド! 秘策あるんでしょ?」
「ルビー。 ……まったく。 無茶苦茶、言わないでよ」
姉さんの無茶振りに、エメラルドが苦笑いした。 けれど、その顔からは自信があるように見えた。
『アォォアオオ……』
竜の尾が薙ぎ払われた。 姉さんはそれを剣で受け止めた。
「くっ。 いい、尻尾じゃない……」
ーーなんとか受け止めたけど、辛そうだ。
「ルビー! 正面から受けるな! 今度は、弾き飛ばされるよ!」
「わかってるわよ!」
姉さんが側面へ回り込む。 速い。 腐食竜は目で追いきれてない。
剣が、竜の前脚を斬りつけた。 ーー剣身が、黒く変色していた。
「姉さん、剣が!」
「腐食……! 冗談じゃないわよ!」
斬った側が腐る。 ーーこのままじゃ武器が持たない。
「オパール、援護!」
「わかった!」
私は氷の槍を放った。 竜の目を狙う。 ーー当たった。 竜が首を振る。
その隙に、姉さんが距離を取った。 エメラルドは、まだ動いていなかった。
得物を抜いたまま、じっと竜を見ている。 観察している。
ーー頼むよ、師匠。 貴方が頼りだからね!




