第52話 正常者と異常者の腹の探り合い
アゼッタが、ゆっくりと崩れ落ちた。
「一番厄介なのは、自分が正常だと思っている異常者ね……」
リディはそう呟くと、アゼッタの体を受け止めて、静かに床へ寝かせた。
ーーそれって、貴方もじゃないかしら?
「……あれは、フレイアが使っていた言霊……」
「ええ。 呪縛魔法よ……」
私が聞くと、リディはフードの下でため息をついた。
「アゼッタやミートは、ずっとこのままじゃないでしょうね?」
「……それは、彼女たち次第ね? ……ホラ、彼女のように」
リディは、ミリィの方を見た。 ラムと抱き合っていた。
「ラム、ワタシモ、クロマジュウカ、シタデス」
ミリィの声は、まだ舌が回っていなかった。
ーーでも、間違いなくミリィの声だった。 よかった。
「そうだね……身体、大丈夫?」
「フシギな高揚感がしてました……」
ミリィの姿が元に戻った。 ーー服がボロボロになってるわね。
「怖かったです。 自分が自分じゃないみたいで……」
「うん。 ……わかるよ」
ラムは、背中をゆっくりと撫でた。 ーーこの子、本当に妹なのかしら。 どっちが姉か分からないわね。
「ミリィ。 はい、服が裂けてるわよ。 私のケープ貸してあげるわ!」
「キャス……ありがとうです」
私は、ミリィにケープを羽織らせる。 うん、似合っているわミリィ。
「これで良しっと」
「キャス、このケープってさ防火性があるの?」
ラムに言われて、私も自分のケープを見た。 焦げ跡ひとつない。 水弾を受けた時も、枷は砕けたのにケープは無傷だった。
「そう言えば……」
「キャス、知らないで着てたです?」
「だって、これはお母様からの旅立ちの贈り物だもん!」
「……!」
「リディ?」
リディが、フードの下で動揺している。 どうしたのかしら?
ーーと、いうか、彼女のフードの下って、絶対に紐下着よね? ーー狡いわね。
一方私はシャツにジーンズ姿。 そしてさっきまではケープを羽織ってた。
ーーサキュバスである私に一番似合わない、一番普通の格好だわ。
「キャス。 ……服を見せてもらってもいいですニャ?」
「ええ、どうぞ」
バニラがケープに手をかざす。 ミリィは赤面している。
「近いです……緊張するです」
「……これは、すごいケープですニャ!」
バニラが興奮していた。
「これは、聖遺物ニャ!」
「はあ?」
「ダンジョンのレアドロップ品ニャ! 市場に売れば、一攫千金ニャ!」
私は、ケープを見下ろした。
ーーお母様、そんな物を私にくれたの?
『……キャス。 お前にコレをあげるよ』
『これはケープ? 私には似合わない物だけど……』
『いいや、キャスに似合っているわよ。 ……このケープも、この家で埃をかぶらせておくよりも、貴方に渡した方がいいわ』
サキュバスには不要だって言ったんだけど、どうしてもってお母様がいうからーー
「……お母様」
「……いい出会いがあったのね、キャス」
「リディ? 随分と、保護者面ね?」
「まあ、そうだろうね……だって……」
「だって?」
私が、その続きを促そうとした時。 ミートが呻いた。
「う……ぬ……」
「ミート! 目が覚めた?」
「……私は、どうなったです?」
ミートは、頭を押さえながら起き上がった。
「……変な気分になって、それから何が起きたのです?」
「私がついに枷とケープを解除したのよ! だから、裸までもう一歩よ!」
「キャスは黙って。 リディが気絶させてたんだよ」
「私、気絶しておったのか?」
私の宣言を遮って、ラムがミートへ答えた。
「ミ、コンビは第一段階、突破ね……」
「「ミ、コンビってなんです」」
「貴方達、名前も語尾も同じだからいいじゃない」
ミートとミリィがリディへ詰め寄った。 この女は、肝心なことは何も言わなかった。 フードの下で、静かに笑っているだけ。
ーーええ、分かってるわよ。 第二、第三の関門があるのね。
「……それで貴方は突破できるのかしら?」
「……私は別に正常でしたよ?」
アゼッタは、いつの間にか起きていた。 だけど、様子が違うわね。
「あら? 仲間討ちをするからてっきり?」
「……貴方。 わかってて、私を昏倒させたんでしょ?」
二人が睨み合っているわね。 先に折れたのは、アゼッタだった。
「……まあ、今回は見逃しますが、次に同じことがあれば……」
ーーミリィとミート学園長は始末します。
アゼッタは、たしかにそう言った。




