第51話 VS黒魔獣化ミリィ ーーアゼッタ視点
「ミリィ!? ……まさか。 黒魔獣化!」
キャスが叫んだ。 ーーなに? この状況に心当たりがあるの?
立っていたのは、ミリィだった。 服装だけを見ればだけどーー
白かった毛が、根元から黒く染まっている。 肌にも赤い黒い筋が走り、爪が伸びて、瞳は白目まで真っ黒に濁っていた。
その足元に、ラムが倒れている。 肩から胸にかけて、服が裂けて、血が滲んでいた。
ーーこれは早く、処分しなくては。
「ミリィ。 ラムになんてことしているのよ、目を覚ましなさい!」
「……ゼンブ、ホロボス……」
「ファイヤーボール」
私は、ミリィに向けて、あえて声をあげて、火球を放った。 ーーしかし。
「ハア! ギャァァ……」
「……」
なぜか、キャスがその間に割り込み、火球を体で受け止めた。
火は、キャスのケープに当たったが、まったく燃えなかった。
「……ぐっ。 なにをしているのキャス? 早く、そこをどいて?」
「それは、コッチのセリフよ! アンタ、ミリィを焼き殺す気?」
「……そうですが? なにか問題でもありますか?」
キャスが、険しい表情で私を睨んできた。 当然の行為を妨害するなんてーー
「……ハア。 おまえたち……今は、そんな場合じゃないだろう」
「……?!」
「へえ〜」
呆れた口調のルーブの手には、ラムがいた。 ーーそんな! いつの間に?
「バニラ……」
「はい、すぐに!」
ルーブはラムを寝かせた。 その隣には、ミートが倒れていた。 ミートは、気絶したようだった。
バニラは、ラムの傷口に手を当てると、瞬く間に傷が塞がっていく。
ーーさすが、ミルフィのお姉さんなだけある。
そんなラムは、すぐに意識を取り戻した。 そして慌てて起き上がる。
「ミリィ! 一体、なにがあったの?」
「キャス。 お姉ちゃんが、急に……。 止めようとしたら、爪が」
「アアアアアアア!」
その瞬間、ミリィが咆哮した。 苦しんでいる声ね。 今、楽にしてあげる。
私は、十八番の水鉄砲を放った。 これが、私の得意属性よ!
「……」
「……! アゼッタ、やめて! お姉ちゃんを撃たないで!」
ミリィに向かって、弾丸が飛んで行く。 ラムがすかさずに庇おうとした。
「ラム危ない!」
そのラムを、キャスが前に出て庇う。 両手を拘束された手で、私の水鉄砲を受けた。 枷は、粉々に砕けた。
「よし、枷が取れたわ!」
「……また、邪魔をして……」
その直後、 ミリィが跳んだ。 速い。 普段のミリィよりもさらに。
「ッ! スプラッシュ!」
私は水鉄砲を乱射する。 しかし、ミリィには当たらなかった。
キャスが、すべて剣で受け止めたからだ。
「なっ……邪魔ばかりして……」
「やめなさい、アゼッタ! 対話をしましょう」
「……対話? あんな化け物に話は通じませんよ?」
ーー寝言を言っている彼女を無視して、私は再び弾丸を放つ。
黒い爪に私の弾が当たった。 よし、このまま行く。
「ウ、クルシイ。 カラダツライデス……」
「……ミリィ! 私よ! キャスよ!」
「お姉ちゃん、目を覚まして!」
「キャス、ラム……」
ミリィの口が、かすかに動いた。 本当、可哀想に。
ーー早く、トドメを刺すのが、せめてもの慰めになるわね。
私は集中して、杖に魔力をこめる。
「みんな、聞いて! ミリィはまだ意識があるわ!」
「……呼びかけたら、お姉ちゃんは戻ってくるから!」
「ミリィ、目覚めるニャ〜」
溜まった。 ーー私の大魔法で、全てを終わらせる。
「……! アゼッタ! なにしているのよ!」
「やめて、アゼッタ! お姉ちゃんを攻撃しないで!」
「ア、アゼッ。 ヤダ……クルシイノ……イタイノイヤダ」
さようなら、ミリィ。 恨んで出て来ないでね。
「大魔法、タイタンウェ……」
『止まれ、動くな』
「ぐっ?」
ーーなにこれ? 体が動かない。
「はあ。 あの子の前で、あまりでしゃばりたくなかったんだけど……」
声が聞こえたと同時に、目の前にはフード姿のリディがいた。
「少し、『寝てなさい』 ……ミリィと、同様にね?」
ーー私の意識は、彼女の冷笑を最後に、閉ざされた。




