第46話 サキュバスと聖女が交わす約束 ーーキャス視点
ーーガタン。 鉄の扉が、背後で閉まったわね。 これで完全に外界から分断されたわね。
「えっと……」
「どうしたのです?」
私は足を止めた。 ーーいや、これは抵抗よ。
「……拘束具解いて」
「「駄目」です」
隣で私に枷をはめている、ミリィとラムがそう言った。
「なによ、その顔。 私だって空気は読むわよ!」
「空気を読んで、脱ぐ気ですか?」
「また、脱ぐんでしょ!」
「なによ、その言い方!」
ーーまるで、裏切るみたいに言わないでよ!
一体いつまで、拘束しておくつもり? ーーそれに、私が服を着た瞬間からずっとこの状況。
私はサキュバスの姿でずっとこの旅を過ごして来たのよ? 張り切って、前日からそうだったわ!
ーーハッ。 そう言えば、私が前日にお風呂から上がった時。
「……ふう。 ここのお風呂も、しばらくは入れないのね……」
「キャス? なんで下着姿なんです?」
「いつも、風呂の後は長袖長ズボンなのにねぇ?」
そう訝しむミリィとラムに高々と宣言したのよ!
「ふふふ。 これは下着姿じゃなくて、今回の旅の正装よ?」
「はあ?」
「なにを言ってるです?」
まったく、わかってない白ケモフワ姉妹ね?
「私は今回! この格好で旅をするわ!」
ドヤ顔で私はそう言った。 その時、ミリィとラムは顔を見合わせて、言ったわ。
「すごいです、キャス! でも……」
「念の為にいつもの服も持って行った方がいいよ?」
まさか、それが衣服を着用するのを待ってたなんてーー
◇◇◇
第一層は、聞いていた通りの狭さだった。
放置された荷車。 消えた篝火。 開いたままの木箱。
「狭いです……」
「……それになんか嫌な気配をずっと感じるよ」
ミリィとラムが、きょろきょろと周囲を見回している。 やっぱり、第一層というダンジョンの入り口なのに、この狭さは異様よね。
「皆の者行くぞい!」
ミートが先頭で振り返った。 聞くところによると、ロマーニャとあとアルゴスって言う男の人たちとで、あちこち冒険をしてたらしいわ。
「……」
「……」
その後ろを黙ってルーブがついて行く。 この人、本当に喋らないわね!
後、謎のローブの人もね! 私の体が動くなら、堂々と捲るのにーー
「どうしたです? キャス」
「あのローブ女、怪しくないかしら?」
「リディさんだよね。 いい人だったよ?」
ーーいい人だった? どう言うことよ!
「話したの?」
「はいです!」
「物知りで、色々教えてくれたんだ」
ーーちょっと! いつの間によ!
第二層に降りた瞬間、ミリィとラムが小さく悲鳴を上げた。
「です……」
「これは酷いね」
「……ええ」
ーーなるほどね。 アゼッタが震えていた理由がわかったわ。
石造りの家屋が並んでいる。 扉は開け放たれ、洗濯物が干しっぱなし。 露店の天幕は骨組みだけを残して垂れ下がり、鍋が転がっている。
ーーつまり。生活が、途中で止まっているのよ。
「……人が、いないです」
「うん。 でも、いた跡だけがあるね」
ラムが、干された服を見上げた。 子供服だった。
「小さい子まで……」
「バニラ。 大丈夫?」
私は、後ろを歩くバニラに声をかけた。
この子は、さっきからずっと黙っている。 猫耳を伏せて、両手を胸の前で握りしめて。
「……ここ、通りましたニャ。 ナナシに担がれて。 ……あの時は、まだ人がいましたニャ。 露店も開いてて、子供が走ってて」
バニラは、転がった鍋を見つめた。
「私、あの時。 ……治せる人だけ治して、通り過ぎたんです」
「バニラ」
「でも。 全員、消えてしまいました……」
ーー落ち込んでいるわ。 いい子ね、魔王の娘なのに人間に気を配るなんて。
「……あのね、バニラ」
「キャス」
私は、優しく微笑んだ。
「大丈夫。 最後まで、奇跡を信じて頑張ろうね」
「キャス。 ……でも」
「ナナシ?って奴が言ったんでしょ? ダンジョンの奥に絶対に願いを叶えてくれる奇跡があるって……」
「……!」
バニラが、顔を上げた。
「……もし、本当にあるとしたら願うの。 このダンジョンやみんなを元通りにしてくださいって」
「……キャス! はい、わかりました!」
「あら? 語尾はどうしたの?」
「ふふ。 ……プリンが貴方になつき続ける理由が、少しだけわかったニャ……」




