第45話 化かし馬鹿され候 ーー影丸与一
拙者の暗殺は失敗した。 吹き矢は確かに命中したはず。 毒は、瞬く間に獲物の中を循環したはずでござる。
なのに、目の前の獲物ーールミスは立っている。 解せぬーー
「うん、いい毒だね。 僕じゃなかったら死んでいたよ?」
「……なぜ、お主は生きているでござるか」
「僕は王だからね、当然だよ」
「そんなもの理由になる訳……」
「なるよ……」
「!」
ーールミスの声が鋭くなる。 視線が真っ直ぐに拙者を貫いている。 此奴、まさかただの小動物だと思っていたのに、その実は化け狸の類でござったか!
「僕は王だからね。 毒耐性を持っているのは当然だよ?」
「ふん。 お前は耐性を持ちすぎだ……」
狸の発言に、おいぼれが噛みついた。 その隙に拙者は、じわりと後ずさった。
このおいぼれは、魔女の一撃ーーつまりは、ギックリ腰を患っている最中でござる。 ならば、つくのはそこでござる。
「火遁、煙玉!」
拙者はあえて忍法を唱えることで、動揺を引く選択を選んだ。 不意をつくだけでご老体には辛かろう?
拙者は煙に紛れて、その場を颯爽と駆け出そうと、二人の位置から距離を十分に取ることに成功。 さらに距離を稼ぎ逃走を成ーー
「……なにを、している? 影丸与一?」
「な! ……ご老体のはずでは?」
「ああ。 たしかに最近は、年を取って辛いが……」
ーーギックリ腰になぞ、なってはおらんわい。
このご老人ーーいや狸はそう言った。 馬鹿な、全て演技だったと?
「……いつからでござるか?」
「ふん。 最初からだな」
「……最初?」
「武闘大会でお前とキャスの試合を見た時だな」
「……ッ。 まさか、いや。 馬鹿な……」
あの時の、高みからの鋭い視線の主はバルデン前国王だけだったはず。
しかし、かの主は戦死したと公に公表されているはずでーー
「黄泉から来た、妖魔の類でござったか……」
「ふん。 好きに思っているがよいわ。 儂はここにいる。 それが事実だ」
拙者は、膝から崩れ落ちた。 完敗でござるーー
「……降参するでござる」
拙者は懐から短刀を抜いた。 暗殺が失敗した以上、自害するしかあるまい。
「拙者にも、仕える主がおる。 果たせなんだ命は、死んで詫びるが忍びの習い」
「困ったなあ。 僕、君を殺したくないんだけど?」
「命乞いなど、恥……生き恥を晒すつもりはござらん……」
しかし、いざとなったら体が動かぬ。 膝が笑い、短刀を握る手が震えておる。
そうか。 拙者は、死にたくないのでござるなーー と、その時。
「ヤホー! ミアだよ! 読者のみんな〜 おはよう、こんにちは、こんばんは」
ーーのほほんとした声が室内に響き渡る。 何事でござるか?
「貴方! ミアね、気づいたの! キャスとかに視点が当たっている時に敵対したって意味がないってことに。 でも、今がチャーンス! ここにいるメンツの中では、ミアがいっっちばん、主人公格なの。 つまり、今はミアの独壇場なの!」
猫耳女が、訳の分からないことを空間に向けて発しておる。 それだけでも、理解しがたい事象でござるが『チェキ』などと言いながら、ポーズをとっておる。
ーー拙者。 なんだか、自害することが、馬鹿らしくなったでござる。
「フッ。 さすが聖女というべきだな……」
「僕がこれから、影丸与一を説得するはずだったのになぁ」




