第40話 老婆の暇つぶし
ーーなぜ俺が勇者だと知っている? 俺はここに来てから、一切自分の身分を明らかにしていない。
それどころか、バルデン王国でもだ。 俺を勇者だと知る存在などいないはず。
俺が疑問を口に出そうとした瞬間、オニギスがにやけながら口にした。
「なぜ俺が勇者だと知っている? ……答えは企業秘密〜」
ーーこいつ、ふざけやがって。
「俺を舐めるな!」
俺は再び剣を構えて斬りつける。 狙いは首だ。 剣は、空を裂いた。
ーーしかし、直後に首筋に痛みが走る。
「あ……」
「オイラ、君のおままごとに付き合うの飽きちゃった。 しばらく寝ててよ」
膝が落ちる。 ーーなんだ、これは体が。 視界が傾いていく。
「じゃあね? おやすみ、勇者ヘリオドール……」
その言葉を最後に、俺の意識はとうのいて行った。
◇◇◇ オパール視点
第十一層で私たちは、謎の老婆によって足止めされていた。
ーー早く、このことをみんなに伝えないといけないのに。
「フォフォ。 なに、そんなに硬くなることはないぞ?」
老婆は、瓦礫の上で不気味に笑っている。
その横で姉さんはまだ床に伏せたまま動けず、エメラルドは私の隣で両手を上げたままだ。
「まず、自己紹介と行こうかの? 儂の名前はミス・ファナイじゃ」
老婆は、自分の名前をそう語った。 ーーその名前、知ってる。
「聞いたことある……」
「……伝説の魔術学者『時を司る魔女』」
「ほほう? 儂のことを知っておるのか? さすがはガランド探索隊の隊長という訳じゃな?」
そう言うと、老婆は不気味に笑い出した。
「儂がお前たちにさせることは、このまま探索を続けろと言うことじゃ」
「……え?」
思わず、間の抜けた声が出た。
その老婆は私たちにそう言った。 つまり、地上に戻るな、逃げるなと言いたいの?
「殺さないの?」
「今、殺してどうする。 せっかく、生かしてやっているのに……」
背筋が凍った。 その目が語っている気がした。
ーーお前たちは観察動物だと。
「……さて、ナナシ『たち』と合流してもらうぞい。 奴は今二十層にいるからのう……」
「なぜ知ってるのか……そんなことを聴くのは愚問だったかな?」
二十層。 今、私たち人間が最近開拓した場所だ。
「それにしても二十層ね……そう言うことか」
「……エメラルド。 なにか、わかったの?」
姉さんが、声を絞り出して尋ねる。 一方、エメラルドが納得した顔をした。
「通りで全然、見当たらないと思っていたんだ。 オニギスの仕業だね」
「オニギス?」
初めて聞く名前だった。 でも、エメラルドの声の硬さで、それがどれだけまずいものかは伝わってきた。
「フォフォ。 やはり知っておるか」
「調査隊の副団長を、そこに常駐させてる。 エターナル教団の監視のためにね。 ……しかし、報告を全然寄越さないからね……」
「察しがよいのう。 説明が省けたわい……」
老婆は嗤った。 心底おかしそうに。
「そう。 小僧は、第二十層にいる」
「なぜ、私たちを合流させたいのよ……」
「運命とは、無限に広がる可能性……」
老婆は、指を一本立てた。 突然なにを言っているの?
「……まあ、簡単に言うとパズルじゃな? 儂はこれがとても大好きでの〜」
「最悪な趣味だね……」
エメラルドは吐き捨てるように、そう言って老婆を睨みつけていた。




