第38話 地底での痴話喧嘩
「不浄な来客者に裁きを。 表に出なさいアメジスト……」
「おいおい、物騒だな。 俺はそいつを引き渡して欲しいだけだぉ」
アメジストとかいう大男は、入り口を塞いだまま動かない。 後ろには、奴の部下たちがやれやれという表情で見守っている。
白衣どもは間合いを保ったまま、それぞれポーズを決めている。
ーーなんだ、コイツらは?
俺は、そっと後ずさりを始めた。 こいつらの興味が互いに向いているうちが勝負だ。
「ダンジョンは我々の聖域です。 ……ここは絶望を餌に育つ畑なのですから……」
「畑なぅ? お前たちの戯言に付き合っている場合じゃねんだよぇ」
「戯言? ……事実を言っているのですが」
「その布で目と一緒に頭も縛ったのかっ?」
ーーふん。 そのまま、くだらない言い争いを続けていろ。
俺は長椅子の陰を伝って、じりじりと入り口とは反対側へ。 出口が一箇所しかないなら作ればいい。
「大体、貴方は何も理解していない。 事実を知って泣いても遅いですがよ?」
「はぁざ? 事実? なに言ってやがるぃ」
「貴方の上司に聞けばわかりますよ」
「アイツとは、気が合わない……」
「はあ? これだから脳筋は。 せめて、連携をとってください。 全然、報告してないでしょ? 私の話を」
「あは? お前の話なんかぁ。 右から入って左だぜ」
ーーエメラルド。 絶対にコイツを左遷しただろ。 副団長なのに。
「はあ。 これだから、脳筋は……」
「おい、ターコ! なんか言っただい!」
「脳筋、と言いました。 筋肉に脳を圧迫されているのでしょう?」
「言うじゃねえか、目隠し女。 布巻いてんのは、現実が見えねえからか?」
「見えていますよ。 貴方の知識が何一つ成長していないことも」
「ああは。 知識なんぁ、ダンジョンにはいらねんだざ」
こんな奴らが、地下層の奥に居たのか。 前世の俺、出逢わなくてよかったな。
「ターコ、こそ。 成長したのは、そこの二つの塊だけだぇ」
「変態です、皆さん! アメジストは変態発言をしました!」
「なんだよぁ! お前らも、白い目でこっちみんなに!」
ーー空気が、変わった。
「……俺ぁ事実を言っただけでぃ!」
「じゃあ、アメジストが大きくなったのは、アソコだけですね?」
「なんだとうっ! この体を見てそんなことざ、言うとわなん」
「おや。 図星でしたか? プクス」
ーーなんだ。 こいつら、本当にただの喧嘩を始めやがった。
俺は柱の陰を抜けた。 テントの奥、布地が二重になっている場所がある。 通路だ。 あそこからーー
「ダルマさんがこーろんだ! ナナシアウト!」
「!」
「駄目だよ、ナナシくん? 勝手に逃走したら……」
ーーなんだ、コイツは? 気配がなかった。 ずっと、俺の後ろにいたのか?
見た目は華奢な女みたいだが、コイツは男だな。
白衣どもが、気まずそうに視線を交わしている。 いや、目を覆ってるから視線もクソもないんだが、明らかに気まずそうにしてやがる。
「あの……ターコイズ様。 そろそろ、侵入者を」
「今、取り込み中です!」
「引っ込んでろ!」
二人分の怒声が、白衣を黙らせた。
「……まったく。 ごめんね、オイラたちはこっちいこ」
「……」
「ああ、オイラの名前はオニギス。 言っとくとエターナルパーフェクト教団でも、ガランド調査隊でもない。 ただの情報屋さ!」
ーー嘘だ。 コイツ、暗殺者だ。




