第37話 エターナルパーフェクト教団
「く、ゴホゴホ」
俺が目を覚ますと、教会みたいな場所だった。 ーーいや、テントなのか?
正面には祭壇らしきものと、ステンドグラスを模した意匠が施されていた。
このデザイン。 妙に覚えと懐かしさがある。 キャスと初めて会ったあの廃墟と、同じデザインだ。
「……なんで。 ここはどこだ?」
起き上がろうとして、体が軋んだ。 どうやら第十一層を走り抜けた後、どこかで力尽きたらしい。 最後の記憶は、階段を降りる途中でーー
俺は立ち上がって、周囲を見回した。 祭壇風のテントの棚の上には、一冊の本が開いたまま置かれている。 近づいて、覗き込んだ。
『永遠なる完全へ。 我らは不完全を憎み、欠けたるものを愛す。 満たされぬ器にこそ、神は宿る』
ーーなんだ、これは。
「ここはどこだ? 何層なんだ?」
「……二十層よ?」
「なんだと?」
背後から、声がした。 振り返る。 後ろに座っていた。 いつからいたのか、まったく気配がなかった。
修道服のような、白い衣。 顔は見えない。 目のあたりに布を巻いている。 盲目か?
「……何者だ」
「エターナルパーフェクト教団。 ……聞いたことあるかしら?」
「意味がわからねえ」
「そう。 ……それでいいのよ」
女は立ち上がる。 布で目を覆っているのに、まったく淀みのない足取りで、俺に近づいてきた。
「ようこそ、エターナルパーフェクト教団の出張所へ……」
「……なんだと?」
俺は身構えた。 武器を取り上げられていないってことは、警戒されていないってことだ。 舐められているのか?
「警戒しないで。 あなたは客人よ。 今のところはだけど」
「今のところはねぇ。 ……で? その教団とやらが、こんな地下で何をやってる」
「待っているのよ。 畑が実るのを……」
女は祭壇の前で足を止め、開かれた本に手を置いた。
「この世界は不完全でしょう? 人は死に、傷は残り、失ったものは戻らない。 貴方も、そうじゃない?」
ーーぞくり、とした。
「私たちは、それを終わらせる方法を探しているの。 欠けたものを、全部埋める方法を」
「……ハ。 そいつは大したご立派な話だ」
俺は笑ってみせた。 笑いながら、指先が冷えていくのを感じていた。
目は布で覆われている癖に、俺を見ているようだ。
「で? それと何か関係があるのか?」
「ええ。 おおいに。 願いを叶えるためには、大なり小なり犠牲が必要なのよ」
「……」
「貴方も、そのために行動したのでしょう? ご協力、感謝いたします……」
女が、布越しにこちらを見ていた。 気味が悪いーー
「願いを叶えるために。 ねえ、何を願うの?」
ーーざわり、と背筋が粟立った。
「……」
「沈黙ね……」
女は、悲しそうに微笑んだ。 ーーふざけるな。
俺は、俺だけの理由でここにいる。 誰かと同じにされてたまるか。
「まあいい。 通してもらうぜ。 最下層への道は」
ーードンドン。 ドアが激しく叩かれる音が聞こえた。
「……どうやら、歓迎しない来客がきたわね。 穢らわしい……」
「「「「「「穢れ者には鉄槌を……」」」」」」
声の温度が、変わった。
いつの間にか周りに人影が立っていた。 一人、二人? いや違う。 十人以上。 全員が同じ白い衣を纏い、全員が目を布で覆っている。
最初からいたのか。 馬鹿な、この俺が気づかないなど、あるはずがーー
女が、両手を広げた。
「……この私、ターコイズが指示します。 不浄な来客者に裁きを!」
「「「「「「仰せのままに」」」」」」
白衣どもが、一斉に動いた。 速い。 だが、動きが揃いすぎている。 同じ型、同じ間合い、同じ呼吸。 まるで一つの生き物だ。
ーーその時ドアが激しく音を立てて開かれた。 そこには、筋肉隆々の大男がいた。
「俺はガランド探索隊副団長、アメジストだ。 ナナシがここにいることは知っている。 渡してもらおうか?」
「ふん。 相変わらず、下賤な生物ですね。 でも、今日でそれも見納めです」
「なんだよ、連れねな、ターコ? 俺とお前の中だろぁ?」




