第35話 ダンジョンからのSOS
第四層へ降りる階段を、私は鼻歌交じりに下りていた。
放置された装備、上等な革の外套。 どれも持ち主のいない品物ばかり。
しかし、問題があった。 荷物を増やすと動きが鈍くなるということ。
トレジャーハンターの悩みと言う奴だわ。 私は涙を流しながら渋々諦めた。
「うーん、この短剣、そこそこの業物じゃない。 銀貨五枚は堅いわねでもパス」
ーーどこかにマジックバックとかないかしら? ほら、中が四次元になっていて、いくらでも入れ放題の奴よ。
第五層でも、第六層でも。 武器も防具も食料もそのまま。 そして、豪華な魔石たちがゴロゴロと入ったバッグがあちこちに落ちている。
「……これ、私への嫌がらせなのかしら?」
もしそうなら、大したものだわ。 こんなに効く嫌がらせは初めてよ。
◇◇◇
第七層に入った時、初めて「違うもの」を見つけた。 砦だった。
荷車と樽と机を積み上げて、通路を塞ぐように築かれた急ごしらえの防壁。
つまり、ここには相当なお宝があったに違いない。
「……ここにあったのね、金銀財宝が」
防壁の内側には、槍を構えた形跡があった。 交代で見張りをしていたらしく、寝袋が並んでいる。 防壁は、壊されていなかった。 外からも、内からも。
「……でも、今はなにもないみたい……悪趣味なダンジョンね」
私は立ち上がった。 ダンジョンていうのはもっと、夢がないといけない。
ーーでも、ここはどうだろうか? まるで家主が取り押えをしたようになにもかもが消えうせていた。
第八層、第九層は、ただ静かだった。
血の跡すらない。 誰かがここで暮らしていた形跡もない。 この先の第十層への通過階層でしかないみたいね。
そして、第十層。 降り立った瞬間、私は思わず立ち止まった。
ーー冷たい。 ここは温泉地だったはずよね? 温泉はどこに行ったの?
ガランド調査隊の前線基地。 温泉の湧く、ダンジョン内で唯一の安全地帯。
そんな話をリディから聞いていたはずなのにーー
テントの中を覗く。 寝具は乱れ、装備は掛けられたまま。 湯呑みに、まだ湯が残っている。
私は指を浸けた。 ーーぬるい。 消えたのは今?
静かに第十一層への入り口を見る。 もしかしたら、この下はまだ無事かもしれないわね。
ーー第十一層はアリの巣状だと聞いていたんだけど。
「なにこれ? 爆破でも起きたのかしら?」
とある一部分を中心にダンジョンに大きな空間ができていた。 そこで、私はとある仮説を思い出していた。
ダンジョンは生き物だという仮説を。 なぜならーー
その場所が畝りをあげて、振動しているのだ。 まるで、傷を負っているみたいに。
「痛いのね、苦しいのね? ……なにがあったの? 聞かせてくれる?」
私に反応するように、そのダンジョンは答えるのだった。




