第26話 心のケジメ
第三層の最奥。 第四層への入り口前へ着いた。
最早、ここに来るのが日課になっていた。
ギルドに雇われた、門番たちが今日も立っていた。
私たちが近づくと、ナナシの顔を見て呆れた顔をする。
「……おい。 お前、不殺のナナシだろ。 悪いが、お前は通せねぇ」
門番は、いつも通り、慣れた様子で通行を断ろうとする。 彼の顔は、この詰所では絶対に通しては駄目な人間として、登録されているみたいだ。
「……どうしてだ」
「とぼけるな。 お前、ソロだろうが。 第四層からは、パーティじゃねぇと通せねぇ決まりだ。 何度言わせるんだ!」
門番が、面倒くさそうに手を振る。 彼たちは、ナナシのことを顔だけでしか判断してないようだった。
「……今回は、問題ない。 どけ……」
「あ? なんだと? 俺らを……」
「今日の俺は、ソロじゃない……」
「なんだって! あの、不殺のナナシが、パーティを組んだのか!」
ナナシが、ぶっきらぼうに突っぱねた。 それに対して、門番は盛り上がり始める。 一人の門番は、訝しげに眉をひそめる。
どうやら、ナナシの変化に気づいたようだ。
「……ん? お前、なんか……雰囲気が違うな」
門番が、目を細める。
いつものナナシは、擦り切れてボロボロの、浮浪者のような格好だった。 けれど今の彼は、長袖のシャツに長ズボンと長靴、そしてマントを装着していた。
その様子は、駆け出し冒険者そのものだ。
「ほお。 服を着替えただけで、ずいぶん見違えるもんだな……」
門番が、感心したように呟く。 それから、彼の視線が後ろにいる私たちに移った。
「で、そっちの嬢ちゃんたちが、パーティメンバーか。 すまん、ナナシに目が行って気づかなくて……ん? 待てよ。 お前ら、見覚えが……」
門番が、私と姉さんの顔を、まじまじと見た。
「ああ! お前ら、この前の姉妹冒険者か」
「ええ。 お久しぶりです」
姉さんが、にこやかに会釈する。
「久しぶりだな。 しかし、お前ら……大丈夫か?」
そこまで言って、門番は言葉を止めた。
彼の視線が、私たちの服装に、釘付けになる。
「はあ? なんでそんな格好なんだ?」
ーーそう。私たちは今、きっちりとした冒険者衣装ではなかった。
姉さんは、ヒラヒラと裾の揺れる、可愛らしいワンピース。
私も、軽やかなスカート姿だ。
どちらも、街を歩くには素敵だけれど。 お世辞にも、ダンジョン向きとは言えない格好だった。
「……お前ら。 その格好で、第四層に潜るつもりか? この前までは、普通の格好だったよな?」
門番が、信じられないという顔で、問いかけてくる。
「咎める権利はねぇんだが…… 第四層は、第三層とはわけが違うぞ。 その、ひらひらした服で大丈夫なのか?」
門番たちは、私たちに問いかける。 心配してくれているようだ。
私は、姉さんと顔を見合わせる。 これは、私たちのケジメだ。
私たちは、冒険者の装備を身につけてた。 ーーでも、そんなの無意味だった。 私たちは、傷だらけにされた。 布なんて関係なかった。
だったら。 せっかくなら、オシャレしたいじゃないか。
何より。 目の前に、私たちが振り向かせたい人がいるんだしーー
きっと、姉さんを同じ気持ちなんだ。 私たちは姉妹だからね!
ナナシが深いため息をついた。
「……こいつらが、勝手に着てきたんだ。 俺は、知らねぇ」
ナナシが、責任逃れをするようにそっぽを向く。
門番たちは、しばらく私たちを眺めてから。 やがて、肩をすくめた。
「……まあ、いい。 お前らの自由だ。 好きにしろ……」
そう言って、門番は門の脇へと退いた。
「気をつけて行けよ。 第四層は、戻れなくなる奴も多いからな。 ……別の意味でな。 俺の同志たちも、浸かってよ……」
「浸かる? 何言ってやがるんだ……」
私たちは、ついに第四層へ旅立つのだった。 その先は、予想外だった。




