第23話 不殺のナナシ
私たちは、第四層の手前までやって来た。 でも、ナナシはどこにもいなかった。
「……いないわね」
「うん……」
第四層の入り口には、門番役の冒険者たちが立っていた。 ここから先は、中級者以上の領域。 誰でも入れるわけじゃない。
私たちも単身ではないけど、たった二人。 当然、中に立ち入ったことはない。
「お前らが噂の……」
「単身ではないとはいえ、たった二人で……」
「普通の装備だな? それであの活躍か……」
門番たちは、私たちの装備を見ながら、感嘆していた。
「……お前たちの実力なら、もっと下でも通用するかもしれんな」
「ええ?」
「お世辞じゃないぞ。 お前たちの力は第三層では収まらん……」
一方、姉さんは門番に聞き取りをしていた。
「あの。 ……ナナシっていう冒険者、見かけませんでしたか? 黒いマントを着た、二刀流の……」
「ナナシ? ……ああ、アイツか……」
門番たちが、顔を見合わせた。 その一人が口を開く。
「『不殺のナナシ』のことだよな」
「……不殺の? なんですって!」
姉さんは、詰め寄って問いかける。
「知らないのか? 最近、このダンジョンじゃ有名人だな」
「まったく。 毎日来るから、追い返すのも大変だぜ」
「なんか、アイツ不意打ちを狙っているんだよな? 俺たちには効かないけどな」
門番の人たちが次々に彼のことを話す中、姉さんはさらに詰め寄った。
「それで! なんで『不殺』なの?」
「それは、ヌイセマカの奴らが、一人も死んでないからだよ」
「……アイツらが、生きている?」
ナナシは、あの一瞬で、男たちを倒した。 アイツらが反応できないほどの速さで。 ーーなのに。
「……ヌイセマカの男たち、生きているんだ」
私が呟くと、門番が頷いた。
「そうだ。 全員瀕死だったがな。 ……一人も死んでねぇ」
「そんな……」
姉さんの体が震える。 怒りに満ちた目をしていた。
ナナシはアイツらを殺さなかった。
「あんな腕を持っときながら、誰も殺さねぇ。 ……だから、『不殺のナナシ』だ。 妙な奴だよ、まったく」
門番が、肩をすくめた。
その話を聞いて、胸の奥が熱くなる。
ーーお姉ちゃんの言う通りだった。 あの人は、人殺しなんかじゃない。
「邪魔する奴は殺す」なんて、言ってたくせに。
「……オパール」
「……うん。 お姉ちゃん」
私たちは、顔を見合わせた。 姉さんの目には、もう迷いはなかった。
「……決めた。 あの人に、会いに行こう」
◇◇◇ ナナシ視点
俺は、ダンジョンの入り口前にある詰所で、白髪猫と向かい合っていた。
例の事件を解決した『功績』とやらで、俺はこの詰所への立ち入りを許可されたらしい。
どうでもいい。 そんなもの俺には関係ない話だ。
それにしても、ここは詰所にしては、やけに立派な家だった。
別に綺麗な飾りがある訳ではないが、その分食料がたくさんある。
「……おい」
「なんですかニャ?」
「ここは、なんでこんなに立派なんだ」
白髪猫聖女は、にやりと笑った。
「気になりますかニャ? 実はですニャ……」
「いや、別に。 ……ただ聞いただけだ」
「そんニャー ……教えてあげてもいいですニャ」
「どうでもいいんだが……白髪猫のことなんて」
「……バニラって呼んでくれニャー そしたら、秘密を教えてあげますニャン!」
白髪猫が、顔を近づけてくる。 いかにも貴族みたいな服装が、今の場所がダンジョンの前だという事実を忘れさせる。
「興味ない……」
「ニャーッ!? 即答ニャ!?」
俺は、そっぽを向いた。 いちいち名前なんか呼ぶか、くだらない。
ーーどうせ、バニラもすぐにいなくなる。
それに俺には、最深部を目指すという目的がある。 それ以外のことは、全部、どうでもいいことのはずだ。
バニラが、頬を膨らませて、何かぶつぶつ言っていた。
「ニャン。 私の魅力はミルフィやプリンにも負けないニャー……」




