第20話 ヌイセマカを倒すヒーロー
翌朝。 第三層の入り口で私たちはナナシを待っていた。
しかし当然、ナナシは来ない。
「まずいわね……」
「どういう意味?」
私が姉さんに説明を求めようとした、その時だった。
「おーい、お嬢ちゃんたち! おはよう!」
声をかけてきたのは、昨夜の『ヌイセマカ』の男たちだった。
私は、咄嗟に姉さんの腕を掴んだ。 怖いよーー
「……お姉ちゃん、逃げよう」
「……」
男は、にこやかに近づいてきた。 昨夜の下卑た雰囲気を、ものの見事に隠して。
「お嬢ちゃんたち。 こんなところで何やっているのかなぁ?」
「……」
「今日、ダンジョン一緒にどうだ? 大勢の方が安心だろ?」
これは傍から見れば、普通の行為だ。 断れないーー
ちらりと姉さんを見た。 姉さんは、にっこりと笑顔を見せた。
でも、わかっているよ? お姉ちゃんの手が震えているのーー
「……ありがとう、ご一緒させていただくわ」
「お姉ちゃん……」
姉さんの震えてる手を、私は掴むことしかできなかった。
最初は、本当に普通の探索だった。 男たちは、慣れた様子で先頭を歩き、魔物を倒し、魔石を回収していく。
ーー怖い。 そしてその時は、訪れた。
背後にいた男の一人が、私の首に腕を回した。 手にはナイフを持っている。
「っ!」
「動くなよ、ガキ!」
ナイフが、私の首筋に当てられた。
「オパール!」
「動くなよ〜 お嬢ちゃん」
男が、にやにやしながら姉さんに近づいていく。 男は、にやりと笑いながら、姉さんの体に触れる。
「……さて、と。 お嬢ちゃん、わかっているよなぁ?」
「何が望みよ!」
「男が暗い中で、女にすることは、な〜んだ?」
「……」
「言うこと聞かねぇと、妹の命はねぇぞ?」
私の首をナイフが傷つける。 ーー痛い! 怖いよ!
「嫌だ、やめて! やめてよ!」
「黙れ、ガキ」
男が、私の頬を平手で叩いた。
「貴方達! オパールには手を出さないでよ!」
姉さんは、服を脱ぎ捨てた。
「お姉ちゃん……」
「……オパール、大丈夫だから」
大丈夫なんて、嘘つき。 ずっと、震えているじゃん。
「ちゃんと脱げよ、姉ちゃん。 全部だぜ?」
「……」
姉さんは、唇を噛みしめながら、下着を地面に投げ捨てた。
「おお、最高だぜ。 服の状態であれだったからな〜」
男たちの下卑た声が、ダンジョンの壁に反響した。
裸になった姉さんに、男が近づいていく。 ごつい手が、姉さんの肩を掴んだ。
「乱暴しないで!」
「はあ? ……なに言ってんだテメェ」
襲いかかる汚い手。 みるみる内に、姉さんの体は汚された。
私は首筋の刃が食い込むのも構わず暴れた。
「うるせぇガキだ!」
私を捕まえていた男が、刃を私の服に滑らせた。 ぼろぼろに服が切り裂かれていく。 そして肌に、ピリッとした熱い痛みが走る。
「オパール!」
「お姉ちゃん!」
目の前で、姉さんが、男に押し倒されていた。
男が、にやにやと笑いながら、姉さんの上に覆い被さる。
「教えなさい。 ……ボンバさんを殺したのは、貴方たちなのね?」
その瞬間、男の顔が歪んだ。 心の底から醜い笑みだ。
「今更聞くのか? そうだぜ! 最近流行っている窃盗は、俺たちがやったんだ!」
男の足が、姉さんの脇腹を蹴り上げた。
「ぐぅ!」
「お姉ちゃん!」
姉さんは、ゴロゴロと転がされる。
「次は、お前らだ! 死ね」
ーーああ、終わりだ。 私たちもこいつらに殺される。
私が、もっと強ければよかったのにーー
涙が、ぼろぼろと溢れた。 男の影がまた、姉さんに覆い被さろうとしていた。
ーーその時。
「ぎゃっ!?」
男たちの体から、血が吹き出して倒れていく。 一体何が起きたの?
ダンジョンの暗闇の奥から、それは現れた。
ボロボロのマント。 二振りの剣。 ぎらぎらとした、獣のような目。
「……ナナシ……」
「ナナシ……」
私たちは、震える声で、その名を呟いた。
ナナシは、無言で姉さんを一瞥した。 傷だらけの姉さんと私を。
その目は、今まで見たどんな目よりも、冷たかった。




