しゃぼんだま通信
センチメンタルに浸っている暇はない。行動にゃ!
薬草は集落のあちこちに雑草のように生えていた。今回は割れにくい薬草にするために、ハイポーション用のマカロノ草らしきものを探して収穫する。集落の民ならマナーを守って誰でも収穫できるらしいのでありがたい。
私はさっそく原っぱに行き、川の水を張った桶に途中で摘まんだ薬草を入れ、ポケットの中から川で拾ったクズ魔石を取り出して入れる。
『ねこねこパワー、注入っ! にゃっ!』
ぱああ。無事にクズ魔石からは色が抜け、ポーションが完成する。
「できたにゃ!」
その中に、ムクロジの実を泡立てたムクロジ液を、手杓に入れたポーション液にそーっと攪拌しながら入れてみる。思ったよりとろみがあるけれど、無事にシャボン液が完成した。これで割れにくいはず。
そして薬草を探しながら、私はシャボン玉作りに使えそうなものを見つけていた。
ふと、作業中に枯れ草が目に留まった。そのとき思い出したのだ。
(ストローの語源は麦。だったら!)
麦科の植物なら枯れた枝がストローになるはず!
私は枯れ草を選び、収穫用の小刀を持ち歩いている子供に切ってもらった。
するとばっちり茎は空洞になっていた!
「ストローにできるにゃ!」
私がはしゃぐと、子供達が言う。
「これ、薬草の何かだったよね?」
「そんな気がする。なんだったっけ?」
大人が近くにいないし、私も鑑定スキルがないので、具体的にどんな薬草かはわからない。一般的な薬草なら前世の記憶とクリフォードさんの書斎に置いてくれていた薬草の標本のおかげでなんとなくわかるけど。
「ともあれストローとシャボン玉液はできたにゃ!」
「何をするの?」
「そのお水飲んだらお腹壊しそう」
子供達はシャボン玉遊びを知らないらしい。気軽に遊べる石鹸がないなら当然だ。
わくわくとする子供達の表情が可愛い。
「ふふふ、見てるにゃ~」
私はそーっと手杓のシャボン玉液にストローの先を入れ、空に向かってぷーっと吹く。
シャボン玉が出来た。やった!
少しでも大きなものを作ろうと、私は慎重に膨らませる。
「……え……」
口元に手を添え目を丸くするのはアリスちゃん。
他の子供達も口をあんぐりと開けている。
ほんの小さなストローから、人間の頭より大きいくらいの大きさまで膨らんだシャボン玉。さすがに怖くなって空に開放すると、すーっと風を捕まえて空へと昇っていく。
――そのまま、見えなくなった。
「うそ……」
「すっごーい!」
子供達は大はしゃぎ。私は呆然としていた。
アリスちゃんが隣でほっぺに手を添えて、しみじみと空を見上げて呟く。
「シャボン玉ってあんなに割れないものかしら」
「ええええと……」
私はシャボン液を見る。
前回シャボン玉の時に使ったのはコモンポーションだったけど、今日のポーションは多分ハイポーションのはずだ。
ハイポーションならシャボン玉の持続力も高まるのだろうか。
それとも作ったポーションが、想像以上に上等な物になっているのだろうか。
「うーむ……」
考え込んでいても仕方ない。子供達はつぎつぎと草ストローで空にシャボン玉を飛ばしていく。
「アリスちゃん。外に居場所が届くように祈りながら吹くにゃ」
「そうね、おまじないもやってみないとね」
はっとする。アリスちゃんは私がポーションを作っていることを知らないのだ。
話を合わせて私はぐっと拳を作る。
「そうにゃ、お祈りにゃ~。どうかここにいると伝わりますように!」
「アリスはここよ、パパ……ママ……おばあちゃん……サニー、モフルイス……」
家族の名をつぶやき、アリスちゃんは切なげにふうっとシャボン玉を吹く。
私も続いて、思いっきり念じてシャボン玉を吹いた。
(パパ、ここにいるにゃ。このシャボン玉のポーションの力と中に入っている私とアリスちゃんの気配を感じて)
空を飛ぶ怪しい魔力物質ならば、きっとクリフォードさんが見つけてくれる。
思いっきり吹いて巨大なシャボン玉を作ったところで。
大人達の声が聞こえてきた。防具を着けた見回りの男性だ。
「こら、何をしているんだ!」
「にゃっ」
子供達が散っていく。
私は証拠隠滅とばかりに驚いた振りをして、全部のシャボン液をぶちまける。
「何をしているのですかミルシェット様、……あああ、泣かないでください」
「みみみみんなにあそびをおしえてただけだにゃあああああ」
「あああ、わかりました、わかりましたから」
「族長屋敷に連絡を入れます、着替えを持って向かわせますから」
えぐえぐと泣く私を置いて、彼らは去って行った。
アリスちゃんがしゃがんで頭を撫でてくれる。
「大丈夫? ミルちゃん」
「大丈夫にゃ。嘘泣きにゃ」
「うふふ、ミルちゃんったら。……あら?」
アリスちゃんがポケットを探り、困った風にあちこちを確かめる。
「ハンカチ、落としてしまったようだわ」
あちこち探してみたけれど、どこにもハンカチらしきものはない。
「最後に出したのはお洗濯が終わったあと、足を拭いた時だったから……川で落としたのかも」
「こけちゃったときに落ちたのかもにゃあ」
探しに行こうにも、もう空はあかね色になりかけている。
そろそろ族長屋敷に戻る時間だ。
「仕方ないわ、アリスが怪我しないように身代わりになってくれたのよ」
「大人にも言って、明日もう一度探してみるにゃ」
「ありがとう」
私たちはそうして族長屋敷への帰路に就く。
空はたちまちあかね色になり、夜が近づいてくる。
私は空を見上げた。シャボン玉はもう見えなかった。
――ミルシェットがそんな風に決意を固めていた頃。
クリフォードはようやく、ミルシェットの居場所を突き止めていた。




