クソガキ大作戦
「ふええ、アリスちゃんに会いたいにゃああああ」
覚悟が決まった私は強い!
聖猫族の里で数日、私はただただ従順にしつつアリスちゃんがいないと泣き続けるようにした。
反抗ではなく泣き落とし、手のかかる子供作戦。
アリスちゃんと会わせてくれないと言うことを聞かないと盛大にアピールしたのだ。
食事もあまりとらず、泣いてばかりで、水浴びもキャンセルして、床でごろごろ泣きわめくなど、前世色んなところで見聞きした「聞き分けのない子供」のムーブをやりまくった。
――じたばたクソガキムーブをしながらふいに頭をよぎるのは、クリフォードさんの姿だったりするけれど、まあそれは置いておいて。
私の世話役らしい女性達はどうやら暴力行使はできないらしく、クソガキムーブをしても舌打ち一つされず、困った風に必死になだめすかされるだけだった。
最終的にはいつも両親のどちらかが来るので、私はにゃあにゃあとアリスちゃんが可哀想で不安だと訴えた。我ながらものすごくうざいクソガキをやっているが、アリスちゃんの為ならこれくらいなんてことないのだ。
「どうして会わせてくれないにゃ、パパとママの所に帰ったにゃ? 可哀想にゃめそめそ」
「ミルシェット、聞き分けなさい」
「大人の事情で会わせられないが、彼女は元気に過ごしているから」
「会わないと不安だにゃああああ」
「せっかく『禊ぎ』をすませて普通に出歩けるようになったんだ、彼女と再び出会っては」
「にゃあああああ」
そんな私にお母さまはずっと厳しい顔をしていたが、ついにお父さまが折れた。
「しかたないだろう、ミルシェットがより一層『穢れ』に執着してしまえば君も困るだろう」
「……甘いんだから」
私の駄々っ子作戦が上手くいったのか、逆効果だったのかは分からないけれど。
無事に私はついにアリスちゃんと会えることになった!
朝食を取ったのち案内された歓談室らしきカーペットが敷き詰められた綺麗な部屋で、アリスちゃんが一人座っていた。
「アリスちゃん!」
「っ……ミルちゃん!」
私たちはひしっと抱き合う。アリスちゃんは不安で疲れている様子だけど、肌つやもよくて清潔な服を着ていて、ちゃんと大事に扱われているようだった。
「ミルちゃん、もう大丈夫よ」
「にゃあああ」
中身は成人女性なんだから泣いちゃ駄目だ。そう思っていても幼い体に涙腺は引っ張られるのか、私はアリスちゃんを見ただけで号泣してしまった。
「よしよし、心細かったわね」
涙をぽろぽろとこぼす私を、アリスちゃんはぎゅうっと抱きしめる。
胸に顔を寄せながら気付く。私はてっきり、自分がアリスちゃんを心配している側だと思い込んでいた。違うのだ。アリスちゃんは私を心配してくれているのだ。
アリスちゃんはお姉さんだから。ミルシェットは、年下のお友達だから。
不安だろうに。まだアリスちゃんだって、小さな女の子なのに。
「あ"り"す"ち"ゃ"ぁ"ん"……!!!」
わんわんと泣いてしまう私。迷惑をかけちゃうと思ったけれど、アリスちゃんはとっても優しい顔をして私の頭を撫でてくれた。
冷静に考えると、アリスちゃんも私が甘えることで安心しているところがあるのかもしれない。
甘えられるお姉さんであることが、彼女の「日常」なのだから。
侍女さんたちの目があるので大きな声でお話はできない。
私はこそこそと、ふたりで状況を共有し合った。
アリスちゃんは捕まってから、ずっと客間のような場所で大事にされていたという。
「ミルちゃんのお友達だから、ニンゲンでも大事にしますって言われたの。お風呂も食事もちゃんともらっていたわ」
「食事……まずくなかったにゃ?」
「そんなことないわよ? おいしいパンやスープを貰ったわ」
「ななな」
どうやらニンゲンだからニンゲンの食事を渡されていたらしい。
うらやましい。酷く羨ましい。
「もしかしてミルちゃん、お食事貰ってなかったの?」
「ちちち違うにゃ! たくさんもらってたにゃ!」
「ならよかった」
アリスちゃんに心配をかけるのはよくない、あわあわしていると、アリスちゃんがちょっとさみしそうな顔をした。
「……幸せなら、よかった」
「アリスちゃん……?」
アリスちゃんは気を取り直したようにぱっと明るい笑顔をつくる。
「ね、ミルちゃんはここで暮らすの? ここにはミルちゃんのお友達がいっぱいいるから、ミルちゃんはもうスレディバルには帰らないって言われたんだけど……」
私はアリスちゃんの手を握り、そっと手のひらに×を書きながら言う。
「そうだよ。でも、アリスちゃんは戻れるようにお願いしてるから」
「……ミルちゃん……」
アリスちゃんの目が揺れる。気丈に振る舞っていたアリスちゃんが、初めて年相応の不安な顔をした。ぎゅっと抱きしめる。気持ちが伝わるように。




