アリスちゃんに会いたいにゃ
捕まってからずっと、私は一人で部屋から出してもらえなかった。
出ていいのはトイレやお風呂といったときと、一日一度、両親と一緒の昼食時だけ。
ずっと侍女のお姉さんたちがそばにいて、お腹がすいたとめそめそすると温かなスープを与えてくれた。私は前世テレビで見た断食道場を思い出す。あれは好き好んで断食する人たちだけど、私は子供で、別に断食なんてしたくない。辛い。その上食べる食べ物がアレなのだ。
翌日の昼食時、私と両親の席は少し近くなっていた。
最初は本当に穢れだと思われてたのだろう。
げっそりした私がやってきたのを見てお母さまは困惑の顔を見せた。
「恐ろしいわ……外の『穢れ』の解毒でこんなにやつれてしまうなんて」
「これはお腹空いてるだけにゃ。『穢れ』とか毒とかじゃなくて……」
私の言葉に、お母さまは手をシュッシュッと動かす祈りを捧げる。ひどい。
私の表情に気付いたお父さまが渋い顔で補足した。
「ミリアーシュ……お前の母は外を知らぬ。ニンゲンの食事に慣れると三食食べないと空腹になることは理屈として知っていても理解できないのだ」
「まあ。空腹と『穢れ』の違いくらいわかりましてよ?」
お母さまは少し異議を唱えたいらしく、尻尾をぴしっと揺らす。
相変わらず味のない食事をしながら私は思った。
(少なくとも、二人は仲がいいんだな)
それは私にとって数少ない救いだった。ただでさえ捨て子だったのに、愛のない関係から生まれたのならどうしようもない。
(でも愛し合ってるなら、どうして私を捨てたんだろう……?)
考えはじめると、くらっと意識が遠のく感じがする。
(だめにゃ。考えてたらカロリー使っちゃう。今はとにかく生きるのが先にゃ)
私は厳しい顔をしてこちらを見ながら食事をするお母さまを見た。
「お母さま、わたしアリスちゃんと会ったら一発で元気になるにゃ。『穢れ』もふっとぶにゃ。会わせて」
「だめよ」
ぴしゃりとお母さまは言う。
「ニンゲンと会うなんて、『穢れ』が抜けなくなるでしょう。元気になりたかったら、『穢れ』を早く抜くことを考えなさい」
「びえ……」
昼食は結局それ以上の会話が出来ず、アリスちゃんと会うことは失敗に終わった。
部屋に戻って、私はもう一度叫んだ。
「負けないにゃ! 頑張るにゃ!」
そして私は軟禁中、部屋の中をあれこれ探検したりアリスちゃん救出のヒントがないか探した。
しかしカーテンやリネンの刺繍がとても綺麗なことと、窓から吹き抜ける風が心地よいことばかりが分かって、それ以上の成果はまったくない。
「飽きてきたにゃ……」
ちらと部屋の隅をみると、侍女のお姉さんがじっとこちらを見ている。
このお姉さんたちとおしゃべりしてみようか、そう思ったとき。部屋にお父さまが訪れた。
「お父さま! アリスちゃんに会わせて!」
「挨拶より先にそれか」
父は苦い顔をする。
「彼女には会わせられない。今会えば再びお前が『穢れる』と言っただろう」
「じゃあ会わなくていいから、すぐに帰してあげてにゃ」
「お前の『穢れ』が抜けて、聖猫族として落ち着いたら解放する。それまで人質だ」
「そんな可哀想なことしないで。もう向こうの親御さんも生きた心地してないですよ。お父さまも気持ちは分かるでしょ?」
情に訴えたつもりだった。しかし父は頑なさを増した顔で首を横に振る。
「聞き分けてくれ。お前はいずれ次期族長もしくは巫女となる娘だ。お前に『穢れ』があっては、集落に受け入れられない」
「じゃあ『穢れ』てる私も、アリスちゃんと一緒に追い出してにゃ!」
父はそれ以上何も言わず、部屋を去って行った。
「む、むう……」
また失敗。私はなんだか悲しくなってしまった。
私を捨てたり、取り返したり、アリスちゃんを人質に取ったり、両親含む聖猫族の行動がとても冷たく感じてしまう。
「……温かな家族に、わたしは縁がないのかな」
ぽつりと呟く私。
族長に失礼な独り言を言ったのに、侍女のお姉さんはその言葉をとがめることすらしなかった。
私はただただ、道具として軟禁されている気分だった。




