花火大会の夜
「ねえミルちゃん。聖猫族のひと、きっと見つかるといいわね。貴族に見つかったら先に捕まえられちゃうかもしれないから、ミルちゃんが先に会わなくちゃ」
確かに、貴族がうろうろしているのは不安だ。
クリフォードさんが宮廷魔術局に復職してくれたことだし、エリカ様の力で貴族に見つかってもすぐに私が捕まることはないだろうけれど、密造ポーションやっちゃっているのは事実なのだ。
――というか、古い魔術書まで紐解けば、聖猫族とポーション作りが繋がっていることにたどり着ける魔術師や貴族もでてくるかもしれないし。今はいくらポンコツだらけの宮廷魔術局とはいえ、危険だ。危険。
「そうだわ」
アリスちゃんが手を叩く。
「今夜はちょうど花火大会だし、もしかしたら花火を見に聖猫族がくるかもしれないわよ! ほら、本当は猫ちゃんって夜に行動するんでしょう? なら聖猫族も夜の方が見つかるかも」
「花火大会……にゃ?」
「いつもの広場に集まって、火薬を紙でよじって作った花火に火をつけて遊ぶのよ。教会の精霊祭りの一環よ」
私は首をかしげる。
「祭り、今回は町内会からお手伝いのお誘い無かったような」
「アリスの宿もミルちゃんのカフェも商工会ギルドのほうに入ってるでしょ? 今回の祭りは豊穣祭だから、農家の皆さんが主体でやってるのよ」
「なるほど……!」
「だからアリスたちは遊ぶのが仕事よ。夜、ぜったい一緒に花火しましょうね」
「うん!」
私たちは約束を固く誓うようにぎゅぎゅっと手を握り合い、別れたのだった。
◇◇◇
夜にはクリフォードさんが帰ってきた。
「花火大会行きましょう、花火大会」
私はクリフォードさんとシトラスさんと一緒に花火会場に向かう。
シスターは今夜いない。エリカ様がさみしがるからシトラスさんの転移装置を繋いでもらって会いに行くのだという。
嘘だらけでなし崩しからの関係なのに、案外ちゃんとお付き合いしているようだ。
道はだんだん人混みになっていく。
「手を繋ぎましょうか、ミルシェットさん」
「ありがとうございます」
素直に手を繋ぐと、おやとクリフォードさんが片眉をあげる。
「珍しいですね、最近はパパに冷たかったのに。あっ、さてはちょっと離れていたのでさみしくなっちゃいましたか? いやあ、可愛いですね娘。頬ずりしてあげましょうかぬふふ」
「気持ち悪いにゃ」
「あっ辛辣」
こんな風に言いながら、私はクリフォードさんとのやりとりに居心地の良さを感じていた。クリフォードさんがパパになってくれたからこそ、わたしは前世の記憶ゆえの生意気さとか、ませているところを無理にごまかさずに自然体で暮らせているのだ。
(……ママとパパが、もし見つかったら。こんな私を見たらどう思うのかな)
私は人混みの中、色んな家族が手を繋いだり、だっこしたりしながら精霊祭りに向かうのを眺める。大竜厄時代などがあった世界だから、前世の日本以上に養子や血の繋がらない子と親子関係を結んでいる人は多分、多い。
みんな、色んな家庭の事情がある。本当の親との縁と、育ての親との縁。色んな縁に、どんな折り合いをつけながら生きているのだろう。
広場に行くと、聖職者のみなさんが浄化したランタンが広場を照らしていた。
真ん中に櫓が作られていて、その上に聖職者さんが立っている。
(あー、和物ゲームだから聖職者のお祭りも妙に盆踊り風の雰囲気……)
『ねこポ』もそういえば、夏の祭りのイベントをやっていたように思う。
子供達で集まっているところに、聖職者のコスプレのような祭り装束のアンソニーさんとファルカさん、イーグルさんがやってきた。
「はうう、かわいいがいっぱい……」
「姉さん姉さん、出禁になるから奥歯食いしばって耐えるっす」
「ぎぎぎぎ」
「大変ですね。アンソニーさんのお手伝いですか?」
「そうだよ。アンソニーんちが農家だからね。さ、これが参加おみやげの花火だよ」
「にゃ! ありがとにゃ」
線香花火のような花火を貰い、子供達は教会の前で輪を作り、歌を歌う。
歌の内容は分からないから、私は周りに合わせてなんとなく歌う。
夜のランタンの光と、聖職者さんがいる非日常。厳かな歌を歌う子供達もどこか神聖だ。
大人達はちょっと距離を置いた位置から私たちを見守っている。
聖職者の人が子供達一人一人に祈りを捧げながら、花火に火をつけていく。
時計回りに、ぱちぱちと火薬の焦げる匂いと鮮やかな花火の色がともる。
こっそり、隣のアリスちゃんが教えてくれた。
「どんな色が出たかで、一年を占えるのよ。ピンクが出たら結婚相手に出会えて、緑ならお友達に出会えるの。黄色や金色ならお金や実りで生活が安泰で、赤なら一年家族みんなが元気なのよ」
「へー……」
わくわくしていると、ついにアリスちゃんの番になる。
アリスちゃんの花火は緑だ。わあっと、嬉しそうにはにかむ。
続いて私の前に聖職者さんがやってきて、祈りを捧げられて火をつけられる。
パチッという火花とともに、私の花火は――
「……おや?」
聖職者さんが困惑した声を出す。私の花火はつかない。
困った風に何度か魔術を唱えた後、手元から別の花火を取り出す。
「薬がしけっていたようですね。こちらに火をつけましょう」
「は、はい」
私はちょっと呆然としたまま受け取る。しけって火がつかないことはよくある話だ。
でも、私はかなり動揺していた。
ついた火は赤色で、一年間家族が元気で過ごせるという意味だ。よかった。よかったけどもやもやする。こんな占いや験担ぎなんて、気にしては負けだと分かっているけれど。
「ミルちゃん」
横から話しかけられる。アリスちゃんだ。
アリスちゃんは私の火と自分の花火を一緒に重ねて持つ。緑の光と赤色の光がふわっと混ざる。
「これでミルちゃんはお友達もできて、しかも家族も幸せになる一年になるわ」
「そうだね。じゃあアリスちゃんのおうちも賑やかになるね」
お互い笑い合う。
私ががっかりしないように、気遣ってくれて嬉しい。




