古くなっちゃうにゃ
私の言葉に、少しだけ目の前の二人の空気が重くなった気がする。
「や、やっぱりあの人弱いんです……よね?」
私は感じていたことを口にする。
「ほら、わたしが知ってる魔術師さんって、クリフォードさんとかシトラスさんじゃないですか。二人が特別なのはわかるんです。無詠唱でなんでもできるし、強いし、魔力切れも一切起こさないじゃないですか。特にクリフォードさんは結界張ったり色々してるのに」
そう言うと、クリフォードさんは胸をそびやかしながらドヤ顔になる。
実際に凄いんだから、やりたいようにやらせつつ話を続ける。
「でも、エリカ様はあまりにも弱いというか。むしろそれを言うなら、ネモリカにやってきた宮廷魔術師さんたちもです。あれ、実戦で魔物と戦えるんですか?」
「役職としては決して低くはなく、相応に能力も高いほうではあるのですけどね」
クリフォードさんが言葉を濁す。シトラスさんが肩をすくめた。
「大竜厄時代の後、すっかり実技より家柄で採用するようになったけね。僕は先生に拾ってもらったからしっかり学べたけど、今は縁故か受けのいい論文が書けるかが大事だから、特に出世に影響しない実戦はほんとやってない人ばっかり」
平和ではない時代ならば、どれだけ破壊力を持つか、破壊力のある魔術師を指揮できるかが魔術師の出世の基準になる。そもそも弱ければ死ぬからだ。
ただの暴力以外で評価されるというのは平和になったということでもあるけれど。
「僕はまだ若いから知らないこともあるけど、昔はああじゃなかったんですよね? 先生」
クリフォードさんは頷いた。
「日々実戦で人がゴミのように死んでいた時代が良かったとも言いがたいですけどね。命を大事にするのは賛成ですが、結果的に丸腰で実戦に向かってる現状を見ると……どーしたいんでしょうねーって思いますよ、ほんと。どんどん呪文は長くなっていきますしね」
「……でもこの国を守る力の一つなんですよね?」
「ネモリカはC級なんですよね」
「はい」
「つまりそこまで危険ではないダンジョンで、なのにこの間はスタンピードが起き、それを宮廷魔術局が出てきても抑えられなかったと」
「……そうですね」
「かなりまずいんじゃないですか?」
「私も思うんですよねー」
「でも向こうが危機感より貴族間の勢力争いに夢中だから平民の僕はどうしようもないんちゃ」
「やっぱり先生、『凪』として戻ってくださいよ。このままじゃうちの国、大竜厄時代の半分くらいの規模のスタンピード起こるだけでも滅びますよ」
「いーやですー。国や国民みたいなクソでかい主語のために生きるのはいやですー」
「まあ気持ちは分かりますけど……」
だよなあ。と思いつつ、私はふと思う。
「……でもパパ、なんだかんだ無視できない人ですよね?」
クリフォードさんが私を見る。
私もしっかり見つめ返した。
「国の為に頑張りたいって気持ちはないかもですけど、なんだかんだ、自分の手の届く範囲は幸せにしたい人ですよね。ほっとけないというか」
「そりゃあ私は天才ですので」
「あと、知的好奇心に結構負けますよね。私拾っちゃってポーション作らせるし」
「……」
「今回だってなんだかんだ変なの作っちゃってたし」
「…………」
クリフォードさんの目が泳ぐ。
「知的好奇心に負けるんだから、やっぱり一般人になるのは難しいんじゃないですか?」
「そんなことありません。私はもう宮廷魔術局なんてごめんです」
「みー」
「嫌なんですよお……あんなところ……」
クリフォードさんは顔を覆ってめそめそする。
「なんで大竜厄時代に輝かしい青春を全部投じて差し上げた私が、アラサーになっても周りに嫌がられたりうっとうしがられたり、いやらしい貴族達に値踏みされながら社会貢献しなきゃいけないんですか、美形の大天才だからってひどいですよう」
はっと、クリフォードさんは髪を振り乱し顔を上げる。
「それともなんですか? ミルシェットさんは私との暮らしが嫌になっちゃいました!? 反抗期ですか? パパを捨てるなんて酷いですっ」
「言ってないことをあれこれ飛躍して捲し立てるの止めてほしいにゃあ」
シトラスさんと一緒に肩をすくめる。
「もう放っとこ、先生がうじうじしだしたら止まらんけ」
「にゃあ」




