うっふ~ん♡シスターよ~ん♡
「はやくっはやくっ早く助けてくださいシトラスっ」
シトラスさんが立ち上がって魔術をかけようとするが、弾かれる。
目を見開くシトラスさん。
「なんだって!?」
「私の邪魔をするな!」
エリカ様の目が爛々過ぎる。
「この人詠唱なしで発動出来なかったのに? ……って、もしや」
私とシトラスさんは目を合わせる。魔力も強くなっているようだ!
「だだだだめにゃシトラスさんも本気出したらカフェが壊れるにゃーっ」
私たちが押し問答している間に、すたこらさっさと姫抱っこでクリフォードさんを連れていくエリカ様。
「……あれはまずいかも。腕力バフをかけてるな?」
「冒険者の人の『ドライブ』みたいなものですか?」
「似て非なる感じ。『ドライブ』は肉体の活性化だし鍛錬の結果得られる力だけど、今のは強引に体の筋力にパワーをつけてるだけ。このままじゃ腕の筋肉が断裂するかも」
「たいへんにゃー!」
「うーん、適当に人に薬物を摂取させるもんじゃないね」
「今更にゃあ」
冷静に分析する私とシトラスさんに、クリフォードさんは手を伸ばし叫ぶ。
「ちょっと待ってください、助けてください、えっえっ」
「そう言われましても難しいちゃ」
「パパも『凪』なんですから頑張ってください!」
「えーん、人はもう殺したくないんですよおおおお」
そのまま階上に姿は消え、バタン……と扉が閉じる音が聞こえた。
嫌なほどの静寂が辺りを包んだ。
「……もういっそ、落ち着くまで先生に犠牲になってもらうしかないのか」
「カフェが存続できなくなったらわたしのピンチにゃ。それにパパも可哀想だし」
そんなことを話していると、店の下から声が聞こえてきた。どんどんどん。
「おーい、いるのかしらん♡ あけてちょーだい♡ 重てえんだから早く開けろやこの」
「シスター!!」
シスターが来てくれた。上の状況を説明すると、にやにやと笑った。
「面白そうだし外から眺めてやらねえ?」
「面白がらないでください! 責任取らされるのは先生なんですよ!」
「でも俺には、おっさんを助けても何のうまみもねえだろ?」
肩をすくめるシスター。そしてシスターらしく口調を変えて続けた。
「あたしは冒険者、慈善事業でやってるんじゃないのよ。あたしがその気になる報酬を提示してごらんなさいな、ボク?」
シトラスさんは渋々尋ねる。
「……何が欲しいん」
「術の指南書が欲しい。中級聖職者試験に受かりたいからな」
意外なほどにまともな要望だ。シトラスさんは頷く。
「それでいいなら約束する」
「おっけー、じゃあ任せてね、ボク♡」
シスターは嬉しそうにスキップしながら、カツカツと2階へと向かう。
ドアノブをカチャカチャと回す。勿論開かない。
おもむろに、シスターは厳かな祈りの所作をした後にドアノブに手をかける。
『天にまします我らが神よ、あたしに力をお与えください強制解錠』
バキッ。
ドアノブは壊れた。
「待ってにゃ、それ明らかに物理」
私のツッコミは無視され、シスターは遠慮なく部屋のドアを蹴破る!
ベッドの上で服をビリビリにされて顔を覆って乙女泣きするクリフォードさんがいた。
「パパッ!!!!」
「先生!」
「ああっ、見ないでください!! ってシスターあなたまで!」
「……よぉ」
シスターはそう言って仁王立ちに立っている。
そして部屋に入り、エリカ様をじっと見る。
「お前は……何だ? 名を名乗れ」
完全に据わった目をしている。
イメージとしては媚薬や惚れ薬で頭がおかしくなったと言えばもっと色っぽいセンシティブな雰囲気にでもなりそうなのに、彼女は「心中するぞ」という覚悟の決まったような壮絶な面構えをしている。
よっぽどクリフォードさんが嫌なのかもしれない、本能としては。
そんな彼女を見下ろし、シスターは目を眇めて笑う。
「あ? あたしの名を知りたいってか?」
艶然と微笑み、シスターはつかつかとエリカ様に近づいていく。
手をひらひらとさせ、教会の祈りのポーズを作りながら、呟く。
『前略神様、あたしの祈りを聞いてくれ、覚醒の甘露を与えたまえ……』
詠唱をもごもごと唱えた後、唐突に思いっきりエリカ様にキスをかます。
「「「「!?!?!?」」」」
硬直するエリカ様の唇を奪ってたっぷり一分を数えそうな頃。
シスターが唇を離して、ぺろっと唇を舐める。
どすり。
エリカ様は気絶した。
「こんなもんか。結構簡単だな」
「にゃにゃにゃ、何をしたんですかシスターっ」
シトラスさんがはっとした。
「もしかして解毒!?」
「そ。口移しで体液を交わしながら解毒呪文を直接ぶち込めば、効果が出やすいだろ? ポーションを流し込むみてぇにな」
「…………意外とまともに修行してるんやね」
倒れたエリカ様の世話を本職のシスターに任せ、しっかり窓と出入り口に鍵をかけておいて、私たちは一階に戻った。
シトラスさんはほくほく顔だ。
「ほんと最高やね。古代魔術の失われとったポーションの効果についてここまで確かめられたなんて」
「ふふふ、シトラスが勉強熱心でなによりです。是非いずれ私も共同研究者に」
「先生宮廷魔術局には戻らん予定やったですよね?」
「うっ……」
しょんぼりとした顔のクリフォードさん。
「まあまあ、皆でちょっと落ち着きましょう」
私は皆にピッチャーでお冷やを出す。三人で座って飲んで、ふう、と溜息をついた。
「あの……わたし気になったことがあるんですけど」
私は片手を上げた。
「ネモリカの時も思ったんですが……あまりにもあの方、弱すぎませんか?」




