子供の前でやるもんじゃないにゃ
4月10日に発売です!
「ま、まあまあまあ! まあまあ! ですよ!」
私はあいだに割って入る。もう我慢できなかった。
「さっきからツンツンギスギス、子供の前でやるもんじゃないにゃ! 大人でしょ!」
私は思わず叫んだ。
子供が言う側ではないと思いつつ、子供だから我慢せず言っちゃえと思った。
「はい! 大人げないことはもう終わりです! お互い見なかった! 知らぬ存ぜぬでなんとなーく、大人の物わかりで終わらせちゃいましょ!」
「聖猫族の猫、今はお前がしゃしゃり出るときでは」
「しゃしゃり出なきゃ収まらない大人げない言い争いしてる場合じゃないでしょ! にゃ!」
「っ……!」
「んもう、みんなお昼食べてないんですよね? 続きはなんかつまんでからにしてください! お腹空いてるとトゲトゲしちゃうにゃ!」
そう。いい年した大人だって、お腹が空いているとトゲトゲするものなのだ。
だから前世はご近所で喧嘩や揉め事が起きたときにはなんとなくご飯を皆で食べて話を聞いてあげる会とかしてたし、今世だってそうだ。このあいだまさにネモリカで、お腹を空かせた大人達がギスギスしていたのを美味しいご飯で解決したばっかりじゃないか。
呆然とした場の大人達に手をパンパンと叩いて、私はキッチンに入る。
そして冷蔵庫を開くと、そこにスコーンがあるのに気付いた。
余っていた小麦粉で作っていた。私のお得意メニューだ。こんなに余っているならいいだろう。
私はざざっとオーブンでブンしたのち、ほかほかのスコーンにクロテッドクリームとジャムを添えてどん! と置く。いわゆるイギリス系のまるっこくて、半分に割ってあいだにジャムやクリームを挟んで食べるタイプのもの。
「食べてくださいにゃ! ほら!」
私は四人がけのテーブルの他の席をぱんぱんと叩く。
目が点になったクリフォードさんとシトラスさんが、呆然と促されるように、エリカ様の前に腰を下ろす。
私はお誕生日席に椅子をもってきて、そこにとんと座った。
「手を合わせてください! はい! いただきます!」
「い、いただきます……」
流されるクリフォードさんとシトラスさん。
エリカ様がまた余計な事を言う。
「待て。猫と一緒に食べると、猫の毛が」
「入らないにゃ! ほらお手々は普通の人間と同じ! これで入るならおねーさんの長い睫のほうが入るにゃ!」
「う、うむ……」
「ほら、いただきます!」
みんなで無言でもぐもぐと食べる。
「……おいしかね」
まず口を開いたのはシトラスさんだ。クリフォードさんも頷く。
「ええ、美味しいですね。ミルシェットさんのスコーンは格別ですね」
そしてちらりとエリカ様を見やる。
「一時休戦です。是非ご賞味ください。私と娘がまっとうなカフェ経営をしているのを実感してもらえると思いますよ」
「……こんな、平民の菓子など」
ぐううううう。
「聞きましたかシトラス。絵に描いたようなお腹の鳴りっぷりですね」
「プライドじゃ腹は膨れんですよねえ」
美味しそうに食べながら、二人でこれ見よがしにくすくすと笑う。
エリカ様は頬を赤くして、スコーンを一つ己の皿に取り分けた。
「まあいい。子供が勧めたものを受け取らないのも収まりが悪い」
「ありがとうにゃ」
私が期待の眼差しで見ていると、彼女はばつが悪そうにしつつ、スコーンを二つに割ってそっと齧る。空腹で飢えた舌に、甘いバターの味がとろけた瞬間が表情に出る。
思わず口を押さえて、彼女は呟く。
「甘い……」
「疲れには甘い物が一番にゃ」
彼女は私の言葉と味に促されるままに、ぱくぱくと、最初はゆっくり味わうように、そして徐々に速度を上げて咀嚼していく。よほどお腹がすいていたらしい。
(ここまで一人で来た? ……普段貴族として過ごしている女の人が一人なら、気を張って警戒しながらここまで来たんだろうなあ。プライド高そうだし、その辺の旅人向けのご飯屋さんにも入れないだろうし、ほんと限界だったんだろうな)
一つ食べ終わり、そしてまたもう一つのスコーンに手を伸ばす。
私はちょっと立ち上がり、先ほど出しそびれていた紅茶を皆に淹れる。
それを口にしてふう、と温かな吐息を漏らしつつ、彼女は私を睨んだ。
「こんなもので絆されると思うなよ。だが味だけは認めてやろう」
「それで十分ですにゃ」
私もそろそろ食べないと、と、大人用の椅子によじよじっと登って手を合わせてスコーンを頂くことにする。急に、私もお腹がなりそうになる。
「いただきます!」
スコーンの表はカリッとして、内側はサクサクの標準的な美味しいスコーンだ。これでもかとたっぷり突っ込んでいるバターの風味がまろやかで、さくさくっと噛みしめる度に口の中がポーションの甘さと蜂蜜の甘さでいっぱいになる。
食べながらふと、私自身がお腹空いていたんじゃないかと気付く。
だから余計にイライラしていたのか、とも。




