のらりくらりのパパ
怒涛で更新してきます!
ちなみに今日美川べるの先生に描いていただいた短編コミカライズ発表されてます!
詳細は活動報告にて!
ダンッ!
エリカ・ライズエールさんは杖で床をしたたかに打ち付け、冷えた声で言った。
「お前には薬物不法所持の疑いがかかっている。先日のネモリカにおけるスタンピード事件、そこで冒険者達の異常な能力発揮が明らかになった。魔術師達は黙っていたようだが、愚鈍な平民どもの口は閉じられないからな。『聖猫族を飼っているカフェが作った飯を食べてから、急に元気になった』という話題が広がっていてな」
ちら、と私に目が向けられる。
私はぴえっと目をそらす。バレた!? バレたかにゃ!?
「怪しいと思ったのだ。珍しい聖猫族を売り飛ばすでもなく変わり者で、なおかつ怪しい料理に関与している人間。……それは、お前ではないかとな。『凪』」
よかった! バレてない! セーフ!
私は内心ほっとする。クリフォードさんは溜息をついて肩をすくめ、まずは全身の水分を無詠唱で散らす。さらさらの髪をかきあげ、改めて真面目な顔でエリカ・ライズエールさんを見た。
「まずは席に座りませんか。レディに立ち話をさせるのも忍びありません。シトラス、貸し切りの札をお願いします」
クリフォードさんの目配せに従い、私は彼女を四人がけの一番広い席へと案内する。
お冷やとおしぼりを置く。
「何でもご注文ください。せっかくお越し頂いたのですから、こちらはサービスです」
「水でいい」
「コーヒーですね、かしこまりました」
クリフォードさんは強引に話を進める。豆を挽いてドリップの準備をしているクリフォードさんを、エリカ様は余計な動きをしていないかじっくり見ていた。
「何かを盛ってもすぐにわかるぞ」
「そうでしょうね、あなたは立派な宮廷魔術局の魔術師なので」
コーヒーを淹れているクリフォードさんに、彼女は尋ねる。
「で、何か作ったのか」
「仕方ありませんね、私がやったことについては認めましょう」
「っ……先生!?」
あっさりと認める師の言動に、シトラスさんが目を剥く。
そんな彼にクリフォードさんは目配せしたのち、視線はドリップするコーヒーに向けたまま、エリカ様に話しかける。
「なに、ただの魔術師としての知的好奇心と慈善欲求です。研究していたのですよ、どこまで薄く魔術をかければ、体質も生まれ育ちも違う老若男女全体に効果のある強化魔術をかけられるのか」
シトラスさんと私は目を合わせる。お互い、慎重に表情を変えないように努める。
「嘘をつくでない」
エリカ様は鼻で笑う。
「魔術をかけたら痕跡が残る。あの場に『凪』の魔術の気配はなかった。ポーションをつくって無断で食べ物に混入させたとしか思えない。このカフェも元気が出るカフェとして地域では有名だそうじゃないか。そんな子供だましで宮廷魔術師を騙せると思うな」
「騙せると思っていないので、素直に話してますけどね」
クリフォードさんが視線をちらっとあげ、挑むような目をする。
見透かしたような、相手を馬鹿にするような眼差しだった。
「『凪』はできないことはしません。証拠を残さず全体効果付与なんて容易いですよ。事実、あなたは状況証拠だけでここに押しかけてきています。どこに私がポーションを使った証拠がありますか?」
エリカ様も怯まない。
「あると言ったら?」
「興味深いので、是非お見せください。じっくり成分鑑定してみせましょう」
にっこり。
微笑みながらクリフォードさんはコーヒーを彼女の目の前にサーブする。
彼女はコーヒーカップとクリフォードさんの顔、どちらも交互に眺めた。
「そう言って、これに盛っていたりはしないだろうな? 『鑑定』」
彼女が詠唱すると、僅かに光がコーヒーの上で輝く。毒は入ってないということしか鑑定結果には出ない。彼女は唇を噛んだ。
エリカ様は動じていない顔をしているが、まったくクリフォードさんの牙城を崩せていない。さっきの痴態が嘘のようにクリフォードさんが完全に上手だった。
(す、すごい……まったくもって嘘のことを認めて、そして彼女が絶対証拠を出せないことを見抜いてそこを突いていく……。彼女は自分のブラフをバレないように必死になるし、その結果、認めていることが嘘かどうか、もっと別の可能性がないかに目が向かない……)
「まあいい。お前は全体効果付与を行ったと認めるのだな? 無許可の魔術行使は公務執行妨害だ。事情聴取のため連行する」
「連行してよろしいんですか?」
ぴく、とエリカ様の手が止まった。
そしてテーブルに手を置いて、クリフォードさんがエリカ様を見下ろす。
「捕まえるなら捕まえてください。私は逃げも隠れもしません。しかし今、宮廷魔術師の弱さが民衆にバレたらまずいですよね?」
「……何が言いたい」
「先日の大勝利は宮廷魔術師の力でもなければ、それどころか市井の逃亡者の気まぐれの魔力付与によって辛くも得られた勝利だと国内外に広まれば、宮廷魔術局の抑止力としての地位は、いかばかりになるでしょうな?」
彼女は初めて、ぐうの音も出ない顔になった。
ほぼ貴族で実戦経験無し。
『凪』時代の宮廷魔術師の力を保持するのはシトラス『嵐』程度。弱さと役立たずさが冒険者に広まれば、そこから伝でどこに広がるかわからない。
クリフォードさんはその危険を未然に防いでやったんだぞと言っているのだ。
「……減らず口を」
にっこりと、クリフォードさんは会心の笑顔を見せる。
「まあ、せっかくなのでここで甘い物でも食べて帰りませんか。私の娘はお菓子作りが得意なんですよ」
「……娘? 本当に娘なのか?」
怪訝な顔をしてエリカ様は私を見る。私はお辞儀した。
「こんにちは」
名乗っていいのかは微妙なので控えつつ。彼女はますます怪訝な顔をした。
「ペットを家族という馬鹿げたお花畑はいるが、お前もその手合いか。所詮平民だな」
冷笑を口の端に浮かべた彼女。
さっと、空気が冷えた感覚がした。
「訂正してください。彼女は、私の娘です」
冷ややかな声で、クリフォードさんが言う。びくっと彼女が目を丸くする。
「ふん、貴族において血のつながりが持てる相手以外は二流の関係だ。種族まで違うのに対等な関係性が築けるわけがなかろう」
「でしたら、平民との見合いに乗ったあなたはゲテモノ好きということですね」
「っ何を……!」
彼女が机を叩いて立ち上がろうとする。しかしクリフォードさんの顔を見て、彼女は言葉を失った。クリフォードさんは真顔だった。ちょっとびっくりするほど冷たい顔をしている。




