シスター視点
スタンピードが収まったのち。
シスターとして治癒の力を使う事が多くて、ダンジョンに入らずとも生活ができていた。
今日も今日で、ギルドの一角を借りて治癒を続けている。
「あだだだだっ、いてえよシスターもっと優しく治してくれよ」
「だってあなたの筋肉がすっごくて、治るのに力がかかっちゃうの♡ ごめんなさいね♡」
「そ、そうかあ? へへへ」
実はまだ治癒術覚えたてで痛み緩和より先に治癒能力の方を鍛えているので痛いのだが、そんな細かいことは笑ってごまかすに限る。実際治るのは早いのだから。
「なんでこんなにお怪我ばっかりしているのぉ? 強い敵でもいるの?」
「いやあ、なんつーか、あの日の強さを思い出してな、あっはっは」
なるほど。あの火事場の馬鹿力的にみんなで戦った夜の感覚でダンジョンに入り、怪我をしているというわけか。
あの日確かに全員異常なほどに漲っていた。シスター自身も、いつも以上に力が出ていた自覚がある。
「……もしかして」
「どうした?」
「うふふ、なんでもないわぁ♡」
笑顔でごまかしながらシスターは確信した。ミルシェットがポーションを作って混入させていたのだ。ポーションには頼りたくないといいながら、困った時はこっそり混ぜて粋な奴め。そう思いながら、シスターは仕事を続ける。
「はい、次のかた~?」
そこに立っている人物は怪我をしていなかった。猫耳をつけた女三人組だ。
怪訝に見上げるシスターに、彼女たちは訴える。
「ねえ、あなたみなかった? ネモリカで聖猫族!」
「猫? あの小さい猫ちゃんなら帰ったんじゃないかしら?」
シスターが小首をかしげると、彼女たちは「違うわよ」と訴える。
「あの子じゃなくて他に目撃情報があるの!」
「あーん、本物の聖猫族からリアルな猫耳の取材したいのにーっ」
「なんであたしに聞くのよ」
思わず言うと、彼女たちが唇を尖らせる。
「だって凄く懐いてたじゃないあの子。あなたにさ」
「聖猫族に好かれるんだから、他の聖猫族の情報も知ってるかしらって思ったのよ」
「ねえ、何か知らない?」
彼女たちが詰め寄る。
後ろに並んだ冒険者の怪我人達が迷惑そうにしている。
シスターはさっさと手を払った。
「ほら、こっちは怪我人がつかえてるのよ。どいてちょうだい」
「えー、シスターなんだからちょっとくらい優しくしてくれてもいいじゃない」
「そうよ私たち困ってるのよ」
シスターは溜息をつき、代表格の女にぐいっと顔を寄せ、耳元で囁く。
「うるさい。治療が遅れてこいつらの傷が深くなったら治癒にも時間がかかるし金もかかる。そのぶんの金、あんたらが払えるか?」
「っ……」
「行け。あんたらが痛い目に遭う前にな」
女達は去って行く。そして待ってくれていた怪我人に礼を言って、シスターは治癒を再開した。再開しながら思う。
(別の聖猫族……? こんなところにいるとしたら野良だが……まさか、な)
根拠の薄い噂話を信じるほど暇ではない。
シスターはそのまま彼女たちの言葉を妄言と判断して忘れることにした。
――だから、ミルシェットはまだ気付いていない。
本当の聖猫族が近づいてきていることに。




