やっちゃったにゃ
宴が明け方まで続いた翌日。
冒険者たちも魔術師達もすっかりぼんやりリラックスしている。
人々はすっかり元気を取り戻していた。
そこに。
ドドドドドド。
「オークが飛び出してきた!?」
私たちのそこからの動きは凄すぎた。
全員弾かれるように身を起こし、非戦闘員のみなさんは家に逃げる。
シトラスさんが叫ぶ。
「全魔術師、防壁魔法を各家屋へ! 『嵐』の名の下に非常事態、臨戦態勢を命じる!」
魔術師達が一斉に陣形を組み、後列は防御、前列は攻撃魔法の詠唱を始める。
「一匹でも多くオークを刈り取れ!」
「ハッ!」
バリーン!
オークが飛び出す! そこにイナゴも飛び出す!
シトラスさんの魔術が炸裂した!
バキバキバキッ!
オーク達が足下から一気に氷漬けにされる!
そして後ろからイナゴの大群が、氷山と化したオークを乗り越えて襲いかかってくる!
ゴオオオオッ!!
しかし問題なし! 魔術師達のファイアボールが次々と乱れ打ちになる!
魔法で弱った魔物達を、つぎつぎに冒険者達がのしていく!
急ごしらえのメンバーとは思えない、美しい連係プレイがそこにはあった。
「すごいにゃ、みんなつよいにゃ!」
こんなに強かったのなら、数日悩むことも無かったのでは?という強さだ。
(あれ……これは、ちょっと強すぎるの……では?)
「がんばれ! がんばれ!」
私は後ろから一生懸命声援を飛ばす。何人かがぐっと指を立ててくれた。
「安心しろ、美味い飯をまた作ってくれよな!」
「オーク肉をもっとガツガツ食いたいぜ!」
皆飛び出していく!
これがマスコットの役割! 私の為に頑張ってたたかってにゃー!
シトラスさんが頭だと気付いたオークが、シトラスさんにいっきに飛びかかってくる。
その体を姫抱っこしてとびすさったのは、シスターだ。
「うおおおおっ! 舐めんじゃねええ!!!」
シスターがモーニングスターを振り回し、オーク達を一気に吹き飛ばす。
シトラスさんとシスター、いえーいとハイタッチ。その後はっとして離れる。
「凄いにゃ……すご……凄すぎる……にゃ?」
私はなんとなく不安になって、こういうときに役に立つパパを探す。
クリフォードさんは屋台前の長椅子に座り、こちらをうさんくさい薄ら笑いで見ていた。
「……あの、クリフォードさん、なにかした……にゃ?」
「いいえ、私はなーんにもしてませんよ。ところでそこをご覧ください」
クリフォードさんに指さされた鍋。
「知ってました? この鍋、鋳鉄の際に熱伝導率を上げるために炎のクズ魔石を溶かしていたらしいんですよ」
「み"」
「そしてオークスープ、これまでのハンバーガーと同じようにその辺の薬草をもりもり突っ込んでましたよね。風味付けにって」
「……そう、にゃ……」
薬味のネギやパクチーのように、薬草の中でも特に風味が強いものを刻んで入れていたのだ。サーッと青ざめる私。クリフォードさんはにこにこと笑う。感情が、読めない。
「つまり――クズ魔石を含む鍋に、薬草たっぷりのスープ。足りないのは聖水だけだったんですが、あの桶にはシスターの聖水が入っていたでしょう? 材料が全部この場に揃った状態で、あなたがはしゃいで踊って『ねこねこぱわーちゅーにゅー』とかなんとかやったわけです。クズ魔石の鍋、薬草のスープ、聖水、そして聖猫族の踊りと言霊――全部が重なった瞬間に、ただのスープがポーションに変わったんですよ」
「はわ、はわわ……」
「皆さん泥酔して寝てたはずなのに、朝からしゃっきりどころか睡眠時に回復バフがかかってますね。その上魔力と身体能力にバフがかかっている。ような~気がしますね~。何ででしょうね、きっと美味しかったからでしょうかね!」
「あは、あはははは……」
何だ。何が「ポーションに頼らずに皆を元気にできたにゃ!」だ。
結局ポーションに頼ってしまっていたのではないか。
「やっちゃったにゃーっ!!」
くずおれる私。
クリフォードさんはあははははと乾いた笑いを浮かべる。
「正直助かりましたよ。気合いだけじゃ結局今回は上手くいきませんでした。ミルシェットさんがネモリカと、その周縁の町を守ったのですよ」
「そう言われても……ああ……これがもしバレたら」
「問題ありません。ここにいる魔術師程度の力なら、通常のポーションとは違うあなたのオークスープの鑑定をしても気付きません。シトラスは勘が鋭いですが――まあ、あの子なら仮に気付いても黙っていてくれるでしょう」
ウインク一つ。
そしてクリフォードさんは、少し優しく大人の声音で、私をしっかり見て言った。
「さすが私の愛娘ですね。誇りですよ。いつもと違う場所で、よく頑張りました」
うりうり。撫でられながら言われると、つい耳をぺとっとして撫でられてしまう。
精神は大人でも肉体は子供なので仕方ない。
――それに。パパに褒められるのは正直、悪くない。心がくすぐったいけれど。
◇◇◇
私はパパの隣に座り、すっかりぬるくなった奇蹟の水もとい塩レモン味の水を飲む。
冒険者と魔術師のみなさんは元気に次々と魔物を狩ってバラして凍結し、次々と保存食を作っている。
昼過ぎには封鎖されていた道が開き、非戦闘員の皆さんは大喜びで外に向かう。
「私たちも行きましょうか」
「はいにゃ」
ラメル商会の馬車の後ろにさも関係者ですという顔をして、私たちは乗っていった。
風に吹かれながら思う。
またシナリオ通りにやってしまった。
私はこれで、一体どうしてしまったんだっけ?
(……突然始まったスタンピード……ポーションを作る事によって切り抜けたピンチ……うーん……なんだか、すごくゲームのシナリオと似ている展開……なんか、関係ないと思っていても、もやもやするなあ)
なんとなく仕組まれているような。
こういう風に収まるように、仕組まれているような。
出て行く馬車と入れ違いに、豪奢な揃いの紋章が描かれた馬車が到着した。
隣で鼻眼鏡とアフロ(記念に譲ってもらえたらしい)をつけたクリフォードさんが、ちら、と馬車を見る。
「さてさて、現場をシトラスに任せて高みの見物だったお偉いさんの顔でもみてやりましょうかね……う"」
「う"!?」
クリフォードさんは青ざめている。顔をアフロと鼻眼鏡の上からさらに麻袋で覆い、がたがたと小刻みに震えている。
「く、クリフォードさん!? どうしたんですか?」
「私は何も見なかった私は何も見なかった私は何も見なかった私は何も見なかった私は何も見なかった私は何も見なかった私は何も見なかった」
「こ、壊れたにゃ」
波乱はどうやら、私にもクリフォードさんにも訪れるようであった。




