うっかり
私が目配せすると、シスターが頷き、皆に向かって手をパンパンと叩いた。
「さあ皆! 元気になったところで景気付けといこうじゃないの! 大盤振る舞いよ!」
私も口元に手を添えて大声でアピール!
「いっぱい食べて元気出してにゃー!」
そこで出すのは、ここ最近溢れていたオーク肉を煮込みに煮込んだスープ!
そこにパスタをドボン!
ラメル商会からまとめ買いさせてもらったものだ。
他の店舗も一緒になって、ビールを出したりおつまみを出したりしてくれる。
お酒を飲んで、奇蹟の水を飲んで、皆豚骨スープパスタをぐいぐい汁まで飲む。
「いつまでもやられっぱなしでいられねえ! 皆で力を合わせて討伐しまくろうぜ!」
「そうだ、倒した分は全部金だ金! 荒仕事で金を稼ぐのが冒険者ってもんよ!」
最初はためらっていた魔術師達も、次第に匂いの誘惑に負けて食事を共にする。
「なんだなんだ」
「美味しそうな匂いですね、一体何を……オーク!?」
「いいから食ってみろってここの店のは美味いから」
「し、しかし」
「ほら、あの猫ちゃんも美味しそうにしてるし」
「……確かに」
「あ、『嵐』! あなたもそんなものを」
思いっきり食らいついて美味しそうにしていたのに気付かれ、シトラスさんが咳払い。
「食べないと限界になるだろう。それにこの店の料理は美味いぞ。あのスレディバルの街で密かに愛されている名店だ、ここで食べなければいつお前達も食べられる?」
全員顔を見あわせる。
「確かに……」
「王都から離れてこんなところ、めったに来ないですもんね」
「いただきましょうか、異文化交流として」
「そうですね」
そんな感じで魔術師達も席に着いてくる。
皆で長テーブルに並んで、ぞろぞろと食事をする。
疲れ切った魔術師達の顔に、明らかにきらきらとした輝きが戻る。
彼らは美味しそうに、ばくばくと食べ始めた。
「オーク肉なんて食べたことが無かったですが、美味しいですね」
「奇蹟の水とよく合う……」
「ああっ、こんな肉にかじりついちゃうなんて野蛮な……っでもたべちゃう……!」
「おうおう、みんないい食いっぷりじゃねえか」
冒険者の皆さんも、そのかぶりつきっぷりに嬉しそうにする。
肉の香ばしい匂い、ジョッキをぶつけ合う音、ビールの匂い。笑い声。
疲れ切った彼らに必要なのは、元気に飲む場だったのだ。
「クリフォードさん! 皆仲良くなれそうですよ!」
「そうですか、私は肉を焼くのでもういっぱいいっぱいですけどね」
「平和な生活を守るためですにゃ、がんばって、ぱぱ♡」
「とほほー」
そこで皆うたっておどれの宴会騒ぎになっていた。
たのしそうでうずうずする。
一緒に踊る。場の空気に流される。
シスターが「皆に元気をあげちゃうわー」なんて言って投げキッス。
あきれつつ、お前もやってやれよと。
「いいぞ猫ちゃんー!」
「可愛いー!!」
もう完全に冒険者のアイドル状態だ。
なんだか皆の熱量を浴びていると頭がぼーっとしてくる。神楽を舞う巫女さんやライブ会場のアイドルが神がかったりするのってこんな感じだったのだろうか。
熱に浮かされるまま、調子に乗って私はシスターにハートをせがむ。
「シスター、はーとつくろ、はーと」
「ん? ほらよ」
私はシスターと一緒にそれぞれの胸の前でハートを作って、シンメトリーに片足をぴょこっと立てる。シスターが元男? マフィアのボス? 知らないにゃ!
私も気が緩んでいた。踊った後に言ったのだ。
「ねこねこぱわーちゅーにゅーっにゃっ!」
「なんだよそれ、かわいいな」
シスターがにかっと笑う。
どうせ、ここではポーションを作っていない。
クズ魔石と薬草と、聖水で作られた何かはない、と。
――私はそう、うっかりしていたのだ。




