泣き落とし作戦にゃ
――半刻の後。
シスターが広場で、集められるだけの冒険者の皆さんを集めていた。
私は木の棒を持って、鼻眼鏡のクリフォードさんとこそこそと様子を見守る。
シスターはスタイルの良い肢体を揺らし大げさに腕を振り、わざとらしく広場の丘に跪く。
目の前にはなみなみと聖水が入った桶がある。
「神様、どうか……ポーションは底を突きつつあります。しかし私の回復魔法も限界……ネモリカにご加護を! 哀れなあたしたちに強い力をお与えください!」
ぼろぼろと嘘泣きをして空を見上げるシスター。しっかり目薬仕込み済みだ。
いつの間にか冒険者の皆様のアイドル状態になっている最強シスター様の様子に、屈強な男達はざわざわする。
「シスター……よくわからんが神々しいぜ……」
魔術師達も聖女のようなシスターが現れたことに困惑した様子だ。
「何をやっているんだ、あの女……」
その時風が吹き空が陰り、そして……
さあっと雲の切れ目から光が差し込み、その光が彼女の前の桶を示す!
きらきらと、輝きが水面を輝かせた!
「これは……ポーションを作っているのか……!?」
「だ、だがあのシスターは聖職者だ。聖水作りはともかくポーションは違法だ」
「そもそも祈るだけで作れるわけが」
冒険者も魔術師たちもざわつく。
――その時。少年の怒鳴り声が響く。シトラスさんだ。
「こら! 勝手な行動は慎めって言っただろうが! そこのシスター、なにを勝手に!」
常識外れの状況に、責任者がやってきて魔術師の人たちがほっとした顔をする。
人混みをかき分け丘の上までやってきたシトラスさんに、シスターが笑顔で桶を示す。
「奇蹟が起きたんです!」
「何が奇蹟だ、……ん?」
そしてシトラスさんは桶の水を掬い、そして……目を見開いた!
一瞬だけ目を細め、桶の中身と周囲の状況を見比べる。そしてすぐに、何が起きているのかを理解したらしい。
「ただの水なのに……本当に塩と果物を搾っただけの本当にただの水なのに! なんと神様の奇蹟が伝わっている、だと!?」
「すごいわ! みなさま神様への祈りを捧げて飲んでみて! きっと大きな力が出てくるわ! さあどうぞ!」
呆然とした冒険者たちに、シスターがつぎつぎと水を運ぶ。
するとその中でもちょっとひょろひょろで胡散臭い、体に合わない防具を着た冒険者――鼻眼鏡にアフロの金髪カツラという珍妙な出で立ちの男が、うおおお!と大げさに拳を振り上げ叫んだ!
「すごい! わた……俺の力が漲ってくる! これは神の奇蹟だ!」
言いながら、うさんくさい冒険者はへっぴり腰で斧を振り回し、その辺の木に当てる!
へっぴり腰なのに――いや、こっそり魔術を上乗せしているのだろう――木が一気にスパァン!と斬れた!
「おおおお……!」
あちこちから飛び交う歓声。
そしてわざとらしく、シスターは頬を上気させて身もだえする。
「きゃあああ、凄いわ! 神の奇蹟だわ~ん! さあ次はあなたも!」
そしてぼーっと惚けて特に催眠にかかっていそうな冒険者に、シスターは近づき、手にカップを握らせてぎゅっと握りしめた。
「さあ、あたしと一緒に神様に祈りをささげて……味わって飲んで。どう?」
美女にぐっと近づかれ、手を握られ、一緒に奇蹟の水を飲んだ冒険者。
彼は一口飲んだだけで、目を大きく見開いた。
「な、なんだか体が楽になってきたぞ!」
「ああ、神様の奇蹟だわ! あなたが癒やされてほしいと、神様が思し召されたのだわ!」
私はそのすきに、さささーっと魔術師の皆さんに水を配っていく。
「魔術師のみなさんもささ、水分補給にどうぞ! 『奇蹟のただの水』にゃ!」
彼らは半信半疑で分析する。
「……本当に水と塩だな」
「だが……確かに美味い」
「なんだか染み渡る……! 元気になってきたな!」
「これが神の奇蹟……!」
冒険者、魔術師問わず。
次々とあちこちから、「俺も元気になってきた」「俺も手を握って貰ったら元気になってきた気がする」と、嬉しいお声がぞくぞくと上がってきた。
「これならオークともやれる気がするぞ!」
皆士気が上がっている。




