ダンジョン街のねこみみ屋台
お昼時、ねこねこ出張店舗は大忙しだ。
「がははは! 飯くれ!」
「昨日の新作のほうな!」
声が大きな冒険者のお兄さん達が、ぞろぞろと屋台に並ぶ。
お兄さん達はみんな日焼けして身長二メートルくらいありそうなマッチョなビジュアルで、私は前世接待で、プロレスやらボクシングやらラグビーの試合やらにつれて行かれていたときを思い出す。
普段スレディバルで会う人たちは皆鍛えていても普通の農家さんや商家さんなので、こんないかにもゴリゴリ!な人はいないのだ。
「おまたせしました! にゃ!」
私は踏み台に上り、受付からハンバーガーを渡す。
んしょ、と小さな体で手渡すのが可愛らしく見えているのか、お兄さんは白い歯を見せて受け取ってくれる。
「新作おいしかったですにゃ?」
「ああ、肉にパイナップルが挟んであるのに美味いのはびっくりしたぜ」
その隣で弟分のような鼻ピアスさんが舌を出す。
「ぎえー、俺肉にパイナップルはなかったわ、兄貴の舌がおかしいんじゃねえの?」
「なんだと表出ろや」
「ひえー、冗談っすよ兄貴、ほらほら猫ちゃんがびっくりしてるっすよ」
「がははすまねえな」
「大丈夫です、率直な感想嬉しいにゃ! ごゆっくりにゃ~」
「応!」
言葉は荒いし声は全部怒鳴り声みたい。
ダンジョンの中は音が反響してうるさいから、ダンジョンに入り続けた人ほど耳が遠くて声が荒っぽくなりやすいらしいとは、ビッグボスもといシスターが教えてくれたことだ。
私はクリフォードさんが次々に魔術で焼いていく肉を、これまたかりっと焼いたバンズに挟み、それぞれのお兄さん方の好みに合わせてパイナップルの薄切りとか、ケチャップとか、オークの油で作った照り焼きソースとかを添えてみる。
カフェの範疇は超えているけれど、美味しそうだからいいのだ。
「んしょ、んしょ」
ぺちっ、ぺちっ、ぎゅ、ぎゅ……
全部を蝋引きの紙に包んで、ぎゅっぎゅと詰める。
体重をかけてぎゅむぎゅむ作業しているのを、お兄さん達が覗いて目尻を下げている。
「かわいいな……」
「ねこみみ、ふわふわだぜ……んしょってすると揺れて、かわいいな……」
「たまらねえよ……けなげだな……」
なんか言われている気がするけれど、気にしてもしょうがない、にゃっ!
前世の高校生時代、バイトでハンバーガー屋さん経験があってよかった。
可愛らしい動きながらも、手際は大人たちよりも何倍も上なのだ!
「ハンバーガー三つおまたせしましたにゃ!」
私は背伸びして、彼らにそれぞれハンバーガーを手渡す。
クリフォードさんでも両手でかぶりつくサイズのハンバーガーが錯覚だけど手のひらサイズに見える。ひええ。
「がはは、相変わらず猫は小さいな、しっかりもっとよく食えよ!」
「みー」
頭をぐりぐり撫でられると、間にシトラスさんがジト目で割って入る。
「ちょっと、妹弟子を力任せに撫でんでくれんね、首折れたらどうすっとや」
「なんだお前、お前も撫でてほしいのか」
「やめり」
ぐりぐりされて不満気に髪を整えるシトラスさん。
文句は言ってもやり返したりしなくなったあたり……少しだけ、性格丸くなったのかも。
「しっかしサイハテのボウズといい猫といい、ここは珍しいガキが多い店だな」
坊主頭にタトゥーを入れたコワモテのお兄さんが一言もらす。
私は耳をぴんとたてて彼を見上げた。
「わたしと同じ聖猫族って、おにーさんでもあんまり見ないんですにゃ?」
「あんまりっつーか、話にしか聞いたことねえな。大竜厄時代に食われて全滅したんじゃねえか?」
「ぎゃふ」
思わず変な鳴き声が漏れる。お兄さん達は腕を組んで顔を見あわせる。
「お前見たことある? この猫ちゃん以外に」
「ねーっすね。サイハテの奴は見たことあるけど」
「この辺で見かけたってお話聞いたんですけどにゃあ」
そこに他の冒険者さんたちも、なんだなんだとやってくる。
「聖猫族なあ、噂でしか聞かねえ存在だもんなあ」
「金持ちの家にはいるらしいけどなあ」
「そういや知ってたか? 聖猫族のしっぽは奇蹟を起こすらしいぜ」
「にゃっ」
私が尻尾を押さえると、シトラスさんが怖い話を言ったお兄さんを睨みつける。
「悪い悪い、ただの噂だよ」
「まあ、他に聖猫族を見つけたら教えてやるよ」
「み、みつけても尻尾引っ張ったりしちゃ駄目にゃー!」
「がははわかってるって。じゃあなー」
シトラスさんと一緒に、お兄さん達をお見送りする。
彼らが立ち去った後、シトラスさんが私を見て感心するように言う。
「ミルシェットって意外と怖がらんよね。ああいう人」
「そんな怖くないですよ。腐ってる人あんまりいないし」
「さっすがビッグボスの元愛猫やね。ほんとに腐っとるやつを知っとおっていうか」
「にゃはは……」
ネモリカには色んな流れ者の人たちがいる。そして皆それぞれ夢に向かって、「成り上がってやる」という生気に満ちている。
失敗しても上手くいかなくても、飲んで忘れれば明日が来るという希望。
きっと高度経済成長期の日本も、こんなガヤガヤした場所があったんだろうなあなんて思ったり。逆にこういうがむしゃらなパワーがなければ冒険者家業はやっていけないのだろう。
厳しく大変だけど、命の輝きが眩しい。
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