その6
飲み終わったコーヒーの缶を握りつぶそうとして握力が足らず諦めた才人は、誰かに見られなかったかを確認する。
「…誰しも格好つけたくなる時があるさ。」
何とかまた歩くことができるぐらいまで回復した才人は、最後の階段を登る。
この階段を登れば、屋上に上がるためのドアでも見えてくるのだろうと、才人は考えていた。
しかし、30階分の階段を登り切った才人は自分の目を疑う。
階段を登り切ったところの正面にある壁に、「29」の文字が記されている。
休憩を入れる前にも見はずの「29」。
階段を登りきるたびに一つずつ増加していた、そこの階数を示す数字。
それが今回だけは増加しなかった。
その階には屋上へのドアなどなく、先程休憩をとった自販機とベンチがあるスペースが存在していた。
そしてたった今登ってきたはずの屋上への階段が伸びていた。
「…なんで?ここが30階のはずなのに。」
明らかな異変を感じた才人だったが、自分の勘違いである可能性もあるのでその階段を登ることにした。
「これで…30階、屋上へ行くことのできる階に着くなら…ただの僕の勘違いで済むのか?いや、そんなはずはない。たしかに僕は…俺は見た。いやしかし…」
才人の頭は混乱していた。
コツ、コツ、コツ、コツ…。
一応敵の存在に警戒しながら、階段を登りきる。
階段を登り切った先には先程見た「29」の数字ではなく、そこにあるべきである「30」の文字が記されていた。
そして、その階の通路の先に屋上へ続くと思われるドアが存在していた。
才人は今日一番の安堵を感じ、敵マジシャンの対応に集中するようにした。
「ああ、よかった。僕の勘違いだったようだ。疲れきっていて見間違っただけだろう。…さぁこんなに苦労をさせたのだから、そこにいてくれくれないと困るよ~。」
疲労でよろよろになりながらも、才人は屋上へのドアに手をかける。
開ける前に模範解答がしっかりと発動していることを確認し、また範囲を自分から1mの距離までに延ばす。
万全の状態になり、安心してドアを開ける。
敵は恐らくここにいる。
根拠は少ないが、勘がそう言っている。
しかし、ドアの向こう側を予想外の空間が広がっていた。




