その4
清明のいた部屋を出た才人が向かったのはこの屋敷の廊下、その奥の部屋だっだ。
元々、あるマジシャンが所有していたこの屋敷だが、そのマジシャンが東方師団に雇われたことで今は才人やその他の魔法使いの住居となっている。
ある程度のマジック耐性があるので、敵の奇襲にも備えやすいというメリットもある。
しかし、事実上この屋敷は東方師団の最後の砦となる場所だ。
ここが奇襲に会うことは東方師団の敗北を意味するだろう。
今は均衡が崩れていないだけで、東と西の勢力の差は歴然である。
つまり、この戦いでの勝利には魔法使いの力が必要とされる。
才人でさえもそれは承知している。
ガン、ガン
才人は扉をノックする。
返事は無い。
「入るよ。」
才人はドアを開け、中に入ろうとする。
「来ないで。」
部屋の中からか細い声が聞こえる。
「すまない、お前にやって欲しい仕事があるんだ。だから入るよ。」
そう答えた才人は再び足を踏み入れようとして、硬直した。
「[雲の糸」か…。俺をここに入れないつもりか?」
才人は気づくことが出来た。
まだ若い才人には戦術や敵の罠などを見抜く力はついていない。
そんな素人でも気づくことが出来る、圧倒的な殺意。
部屋に入って来たなら、殺す。
そんな覚悟が部屋の奥から感じられる。
そんな殺意を前に才人は笑っていた。
「まぁ、良いさ。君が抵抗したいならすれば良い。その抵抗を僕は気づく事も出来ない。
気づく必要が無いからだ。僕の模範解答の前に、君の出した答えは無意味だ。…それじゃ入るよ〜。」
笑った才人は模範解答の世界を、自分の肌から3センチまでの範囲で発動した。
才人の模範解答の範囲は細かな設定が効くのだ。
マジックを発動した才人は臆する事なく部屋に入ろうとする。
「や、やめてよ‼︎ 入って来ないでよ!」
切実な声が聞こえた。
才人の心には響かない。
ピリリリリリリリリリ…
唐突に才人のスマホがなる。
才人はいったん能力を停止して電話に出る。
「もしもし? …ああ、清明か。………分かった向かう。それと、シャルルのことは後回しににさせてもらう。良いな? じゃ、行ってくるよ。」
才人は踵を返して部屋を出る。
清明からの電話は再び町に、西方師団が出現したという報告だった。
恐らく、才人や清明、シャルルなどの魔法使い暗殺の為の強力なマジシャンだろう。
残念な事に、我々は顔が割れている。
外を歩けばすぐに敵に目撃されるだろう。
だからといって身を隠していても、敵の目的には一般のマジシャンの暗殺も含まれている。
再び一般のマジシャンに危害が加わることになるかもしれないこの修羅場に、才人は笑っていた。
「まーた人が殺せる。」
シャルル
クラス 魔法使い
所属 東空師団
マジック
雲の糸
目には見えない糸を貼るマジック。
その糸に触れると強力な毒素が発動し、触れた物質は全て蒸発する。
この力を恐れて、シャルルは部屋に閉じこもってしまっている。




