その3
「だっだいま〜!」
大きな声で叫びながら才人は店の中に入る。
静かな空気に満ちた喫茶店に響く大声に、客は皆振り返る。
「いらっしゃいませ、お客様。一名様でよろしいでしょうか?」
客(?)を迎えに来た店員は、美しい笑みを一切崩さず模範的な対応をする。
他の客は才人を胡散臭いもののように見ているようだが、才人は人の目など気にならないようで、皆の注目に気づかない。
「うん、一名。あと、いつもの頼む。あのカプチーノ。」
それを聞いて、店員は小さくため息をついた。
まるで何かを安心したように。
「かしこまりました。あとお客様、店内ではお静かにお願いします。」
「はいはい、了解です。静かにしまーす。」
そう答えた才人の手に店員の指がそっと触れる。
その途端、才人の体は指に吸い込まれる。
才人のいたはずの場所にはもう何もなくなっていた。
暖炉。
それは、人が生きるための光、人を罰するための光。
部屋の暖炉は火柱を上げて唸っていた。
不意に、薪を炙る業火が消えてなくなる。
火の消えた暖炉の中から少年が姿を現わす。
「あーあ、もう疲れたよ。ホントに。だってさ、二人組だよ二人組。流石の俺も危ないとこだった。全く、これだから東方師団は…。強力なマジシャンが現れたらいつでも呼びつけやがってさー。」
愚痴を吐きながら暖炉から出てきた才人の体は煤一つ付いていない。
暖炉の火は再び唸りを上げ出した。
まるで才人の帰りを喜ぶように。
掠れた声が聞こえる。
「遅かったな、才人。 何が問題でもあったのか。」
その言葉は暖炉の正面からかけられていた。
暖炉の正面、言葉の主であり、才人と向かい合うその男は白かった。
白い体毛、白い瞳に白い唇。そして白い衣服を着ている。
もちろんストレスとかでは無い。
突然の質問に才人は、暖炉の近くのソファに座りながら答える。
「問題ない。相手が僕だ。問題なんて許可しない。僕はいつだって模範解答なんだ。マジシャンの模範でなくては。」
才人の答えは自信満々だった。
「なら良い。ただ、単独の戦闘はあくまでも絶対勝利が前提だ。…お前に限ってはそうそう無いだろうがな。」
白い男は目を瞑る。
「だが…」
「俺とお前は相性が悪い。でしょ?」
被せるように才人は続ける。
「白龍清明。あんたは間違えなく俺の点滴だ。いや、天敵だ。お前は俺が必ず殺す。
[絶対的な勝利]…………。」
ものすごい剣幕で才人は立ち上がる。
才人のその剣幕は、既に行動を移すまでに至っていた。
才人の右手が清明の細い首に伸びている。
しかし、その首を締めて殺すことは出来ない。
清明の体は「見えない何か」に守られていた。
一連の出来事に対して、ただそれだけの事しか才人には理解できていない。
今の才人には、こいつに触れることすら出来ない。
それでも、いつか殺す。
あの日のように。
そんな憎悪が才人を心を満たしていた。
「そうか。魔法使いならいつかは殺しあう運命にある。だが、それは今では無い。 東方師団の勢力も、西方師団に飲み込まれようとしている。お前と俺の力は絶対的だ。 東方師団にはもう俺たちしか頼みの綱が無い。」
清明は殺意に対して臆することはなく、只々目を瞑っている。
才人は薄く笑いながら言う。
「いいよ。分かってる。僕は頑張るから。きっとみんなを助けるから。…もう誰も死なせないから。」
清明に対しての怒りを鎮めたように手を下ろした。
それだけを言い残して才人は暖炉のある部屋を出た。
「嗚呼、なんともつまらない世界。ふっふふふふはははは…」
才人が出て行ったあと、白龍清明は一人笑みを浮かべるのだった。
喫茶店の店員
クラス 5級マジシャン
所属 東空師団
マジック
全知全能の指先
指先に触れた物体を任意の場所にワープさせることが出来る。ワープ先で一般人や敵に能力を見られることを防ぐために幻覚(暖炉など)を作り出す事も出来る。
前例の無いマジックの為、東方師団に雇われている。
白龍清明
クラス 魔法使い
所属 東空師団
マジック
絶対的な勝利
「模範解答」と並んで最強のマジック。
詳細不明。




