その2
「…ここでやるのですか?」
陰のマジシャンを裏路地へ連れ込んだ才人は、人とは思えないほどの狂気に満ち溢れた笑みを浮かべながら語る。
「人を殺るときは裏路地がいいんだ。 なんて言ったって目立たないからね。でも一回一回場所は変えないといけない。そこに死体が貯まっていくのは流石の僕でも気味が悪い。君もそう思うだろう?」
才人は共感を求めているかのように、自分の陰を見つめる。
「そんな人の道に反した考えは聞きたくありません。でも、仇は打たせてもらいます。」
日が陰り、才人の陰が闇にまみれると陰のマジシャンは姿を現わす。
陰のマジシャンの姿を見て才人は思う。
黒い、そして強い異能を纏っている法衣、西空師団内では最高峰の対異能礼装である黒煙法を所持しているなんて並みのマジシャンじゃ無い。
明らかな戦闘のプロだった。
そらが分かっても対策は決してしない。
する必要性が無い。
「そっかそっかー。この僕に異能戦を持ち込むなんて凄いね、感心しちゃうね。君も早く逝かせてあげるから安心して?だってほら、空のむこうで カレンちゃんが待ってるよ〜。」
才人は蛇のような目を見開き、陰のマジシャンを睨む。
「あなたは…殺す!」
陰のマジシャンは地面を蹴った。
一瞬では無い。
まさしく0の時間の間に陰のマジシャンは才人との距離を詰める。
才人が何もできていない間に戦闘の形勢は確定したように思われた。
そして忍ばせていた短剣を才人の首元めがけて一突き…
「…空間移動のマジックか。限りなく魔法使いに近い力を持っているようだな。 西空師団もようやく最大の脅威が何なのか、理解した様子だな…。しかし、殺してやるよ、西空師団の犬。」
才人は短剣が迫っていることに対して何の関心も持っていない。
というより持つ必要が無いのだ。
「そっか。俺、またこんなことをしなくちゃいけないのか。」
才人はうわ言のように呟く。
「でも大丈夫。君の意識はここで終わりだ。
…………模範解答。」
空気が震える。
明らかに思い空気はマジック発動の兆候である。
陰のマジシャンが異変に気付いた時にはもう、才人のマジックは発動している。
突きつけられた短剣、それが才人に直撃することは無かった。
全てが止まった。
音もない、そして光以外の何もかもが止まった世界。
才人の世界。
「範囲は半径10メートルの球体の中。そこが僕の全てであり、世界だ。 この世界では僕の許可無しでは何もできない。生きることも、存在することも…。」
パリ、パリパリパリパリパリパリパリパリパリ…。
突如、陰のマジシャンの体にヒビが入る。
そのまま頭からつま先までの一直線、陰のマジシャンは二つに割れた。
しかし陰のマジシャンは、体から粉砕したことすら意識できない。
そもそも何が起きようが、このマジックの前には人は意識をつないでいられない。
「時間だ。結果を出すには時間が必要だ。その時間を奪う。…未完成の僕はたった半径10メートルの世界での神だけ。僕は神になりたい。全ての結果を、あらゆる破壊や創造を、許可制にしたいんだ…。」
そう呟いた才人の表情はいいまでに見せていない、どこか悲しげな顔だった。
才人はゆっくりと息を吐く。
途端、能力が解除され、止まっていた時間は動き出す。
そして陰のマジシャンも動き出す。
しかしもう人では無くなってしまった。
今の陰のマジシャンは…
「あれ?こんなところに綺麗な女の人の頭が転がっているんだけど。ゴミは捨てちゃダメだろ〜。」
陰のマジシャンの生首を足でどける才人に、慈悲と呼ばれるものは無かった。
才人
クラス 魔法使い
所属 東空師団
マジック
模範解答
自分を中心とした半径10メートルの球体内の時間を操る。また球体の中での破壊、創造すなわち結果は才人の任意によって起こすことができる。
陰のマジシャン
クラス 一級マジシャン
所属 西空師団
マジック
陰の反乱
空間の移動を可能にする。移動できるのは自身だけでなく、触れている物体に対しても発動可能。なんらかの理由により移動先に物体が存在出来ないと、その物体は消滅する。




