五十万円分の教え②
男は訝しげに宇佐美を見つめていた。
「いい車ですね」
宇佐美は、ありったけの愛想笑いを浮かべた。
「いつか、こんな車に乗るのが僕の夢なんです」
「ああ……」
男はサングラスを外した。
案外かわいい目をしている。
「学生さん?」
男は宇佐美の服装を上から下まで眺めた。
履き古したつっかけで、視線が止まる。
「いえ」
宇佐美は困ったような顔で、曖昧に笑った。
「……僕にも、そういう時があったよ。いい車に乗りたい。いい家に住みたい。人が羨むような女の人と一緒に歩きたい……」
男は懐から名刺入れを取り出した。
一枚抜き、宇佐美に差し出す。
『天音 修 ライフシフト・プロジェクト会長』
「よかったら、僕のセミナーにいらっしゃい。夢を実現させようと前向きに活動する仲間に会えますよ」
宇佐美は両手で名刺を受け取り、深く頭を下げた。
天音は車に乗り込む前に、宇佐美を振り返った。
「一つだけ、願望実現の法則を教えるね」
もったいぶるように間を置く。
「自分の願望を、頭に思い描くんだよ。何度も、何度も。そうすると脳が勝手に、願望を実現するために必要な情報を拾い始める。有能な秘書のように働いてくれるんだ。手段なんか考えなくていい。とにかく、自分が欲しいものを思い続けるんだ」
天音は、じっと宇佐美を見つめた。
「今、僕は五十万円分の教えを君に伝授している。ここで会ったのもご縁だと思っているからだよ」
「ありがとうございます」
宇佐美は、もう一度頭を下げた。
そのまま、車が走り去るのを待つ。
エンジン音が遠ざかってから顔を上げた。
願望か——。
僕は、あなたと親しくなる。
そして。
あの家と「電気屋」のつながりを突き止める。
「電気屋」を捕まえる。
マトリより。
警視庁より。
先に。
「電気屋」を捕まえる。
「電気屋」を捕まえる。




