不器用
「座学は聖女様のお部屋の机で行います。魔術はこちらのお部屋で実習・特訓して頂きます。食事は先程朝食を摂った場所で食べていただきます。最後にお風呂場はこちら。以上が聖女様の生活圏になりますので」
エルが、勉強の前にわたしに塔の中を案内してくれた。
案内といっても、最上階であるわたしの部屋のある階と、その1個下の階だけで、エルの説明は終わった。
確か私の部屋にたどり着くまでにめちゃくちゃ階段を登ったはずなんだけど、それより下の階の説明がいっさいない。
ていうかここは何階なんだろう。
「あの……エル、わたしっていつ……」
「お察しかと思いますがー」
わたしの言葉を遮って、エルは無表情で、当たり前の事のように言った。
「聖女様は、国王様から許可された特別な用事がない限り、この塔から出ることはありませんし、今ご案内した生活圏以外の場所へ行くこともございません」
「は……?」
頭が真っ白になる。
だってそんなの、ほぼ監禁……いや、正真正銘誰がどこからどう見ても、監禁じゃないか!
「え、エル……待っ……」
「言いたい事は、表情や仕草、手の震えから全て理解できましたので、訴えたいことや要望があるのなら先に返答させていただきます。無理です。諦めて下さい。以上」
その時わたしは、エルと少しでも分かり合えるかもしれないと期待していた数分前のわたしをぶん殴りたい気持ちになった。
泣き出したい気持ちを押し込むように蓋をして、わたしは脳内で叫んだ。
ー何してんだ遅いはやく迎えに来い!!律ー!!
***
朝、私はアン姉たち「かたわれの永遠」と共に貴族街の入口へとやってきた。
一刻もはやく、咲久を取り戻すために。
個人的には、「頼もーーう!!」と道場破りのように飛び込みたいところだったけど、アンリーヌに却下され、今のところそれはそれは丁寧に接している……つもりなのだが、周りからの目線はかなり鋭い。
現状、門の中には入れてもらえず、その場で待機させられたまま数十分が経過している。
「いつまで待たされるんですか?」
「黙っていろ。国王に確認中だ」
何度きいても同じ答えが返ってきて、自分の眉間の皺が深まっていくのを感じる。
「律ちゃん、焦る気持ちも、咲久ちゃんにはやく会いたい気持ちも分かるけど、待ちましょう。今は友好的に接するべき時だってことくらい、分かっているでしょう?」
……アンリーヌの言う通りだ。
今感情的になって暴れたりしたら、危険人物と見されて咲久との再会が遠のくだけ。
そうだ、こっちの世界に来てから咲久のことで感情が揺さぶられすぎていたり、彼女を守ろうとするあまり近寄って来る者たちに敵意をむき出しにしまくっていたので忘れがちだったけど、私って日本にいた時かなりコミュ力高い爽やか系でやってたんだった。
「大丈夫だよアン姉、わかってる。任せて、猫かぶるの得意なんだよね私」
私がそう言うとなんだか変な視線を感じたので顔を上げると、アン姉は困った顔で笑い、他のメンバーはジトリとした目で私を見ていた。
「え、何?」
「いや、得意って、どこがだよと思ってな!」
「あっはは、本当にね。全然猫かぶれてないよ律ちゃん」
「ほんとそれ。さっき門の人に咲久を返すように説明してた時だって、表情と声のトーン一致してないし、目笑ってないし、圧えげつないしそれに……」
全員の視線が私の後ろへ向く。
ハッとして周りをみると、パーティーメンバー以外も、その場にいる全員が同じ所をみていた。
アン姉が、呆れたように頬に手を当てて言った。
「さっきからずーっと出してる黒いモヤ、隠せないかしら?」
「……ごめん、無理そう」
大抵の事は器用にできて、人並み以上の実力を出せてきた人生だった。
感受性は豊かな方ではないし、感情に心が支配されたり、生活に支障を来すようなことはなく、常に冷静に落ち着いて、自分を客観視することも簡単にできてきた。
……はずなのに、咲久が絡む事柄になると、嘘のように不器用になる。
情けない気持ちを打ち消すように、必死に抑えようと試みるが、黒いモヤはわたしの背中から排出し続けていく。
「……!!」
その時、門が静かに開いた。
中から出てきた男が、威嚇するような口調と表情で吐き捨てた。
「着いてこい。ただし、自称転移者。来ていいのはお前だけだ」
お読み下さりありがとうございます!
なかなか咲久と律を再開させられなくて、個人的にはやく2人の絡みが書きたいのでもどかしいです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!!




