行ってきます
「そうなるだろうとは思っていたけれど、やっぱり入れるのは律ちゃんだけのようね……」
アンリーヌが、心底心配だと言わんばかりの表情で私を見てくる。
本当に面倒見の鬼なんだから。
「大丈夫だよアン姉。私強いし、何かあってもどうとでもできる。必ず咲久を連れて帰ってくるから」
安心させようと思ってそう言ったのに、アンリーヌの表情は更に固くなった。
他のメンバーからの視線も重い。
ーえ、私ってそんなに信用されてない……?
「律ちゃん。貴族街にいる人たちは、魔力量の多い者たちばかりで、下町にいる人たちと比べ物にならないくらい強い人たちなの。物理的にも、魔術的にも、性格的にもね。ルールや身分が絶対の世界で、何かやらかせば理由なんて関係なしに容赦なく殺される……そんな世界よ」
「アンリーヌの言う通りだ。どうとでもなるなんて思って入ってはいけない場所だぜ?下町のようにはいかない。訓練された大量の騎士、下町では使用を禁じられている魔術、俺らですら知り得ない未知の魔術具や薬……貴族街は……そして更に奥の王族街は、本当になんでもありなんだ」
「いい?律ちゃん。交渉も、会話も、穏便にするんだよ。実際どうかは置いておいて、接する人たち全員、敵わない相手だと思って接するくらいが丁度良いよ」
アンリーヌとゴルド、サックの言葉に、私はゴクリと唾を飲み込む。
そして、ヨナが私の胸に人差し指を突き刺して、トドメを刺すように言い放った。
「危機感足りない脳筋。自分の力に自信ありすぎ。速攻死ぬんじゃない?」
正直、そこまで危険な場所だとは思っていなかったし、ただ身分の高い人たちが住んでいるエリア、くらいにしか認識していなかった。
でもそれなら尚更、はやく咲久に会わなければ。
咲久ほど素直で、流されやすいお人好しは、そんな世界にいてはいけない。
咲久はきっとこのままいけば、良いように言いくるめられて、聖女として利用される。
利用されていたことに気がついたとしても愚痴りながらもなんやかんや「まぁ力になれたならよかったよ」と、咲久はきっと笑うだろう。
「おい!早くしろ、いつまで待たせる!」
私を門の中で待つ男が、怒鳴り声を上げた。
アンリーヌが、私の背中を優しく押して言った。
「行くんでしょう?」
「うん、ありがとう皆!言われた言葉、肝に銘じる」
私は皆に背を向けて、「行ってくるね」と手を振って、門の方へ歩き出した。
『行ってらっしゃい!』
「咲久をよろしく」
ぽつり、とヨナの声もした。
その後に、私の地獄耳が、「なぁ、また会えると思うか?ふたりに」「……厳しいでしょうね」という、ゴルドとアンリーヌの会話を拾ったことは、聞かなかったことにした。
門の中へ入ると、茶色くごちゃごちゃした下町とはまるで別の世界にきたような、白い、綺麗に整列された建物が並んでいた。
ひとつひとつの建物が、全てお城のように大きい。
「着いて来い」
警備のような男たちに囲まれて、下町の5倍ほどある広い、広い道を歩く。
道を歩いていると、皆大きな車や馬車を使っていて、徒歩の者は私たちくらいだ。
「ここから40分ほど歩くからな」
「え、車ー……いや、はい。了解です」
ーあっぶな……。さっきあれだけ警告されたばかりなのに、早速口答えしてしまうところだった。
私みたいな得体の知れない侵入者に出す車はないって事だろう。
「ーったく、付き合わされる身にもなれよ。転移者で、聖女様と知り合いだとか言ってたな?嘘だったらどうなるか分かってんだろうな」
警備のひとりが、舌打ちをしてそう言った。
ー……嫌われてるな。
というか、下町での噂だと、転移者ってこの世界だと結構貴重な存在なんじゃないのか……?
転移者といえばもう少し丁重に扱われると予想していたけど、そうともいかなそうだ。
まさか咲久も周りからこんな態度取られてるんじゃないよね……。
通りすがりの人の舌打ちだけで、ビクッと肩を揺らすような子なのに。
咲久への心配度がどんどん増していく。
それとも、私はまだ転移者と確定してないからこんな態度とられるんだろうか。
ぐんなことをいつまでもぐるぐると考えていたら、先導していた男が立ち止まって言った。
「この建物だ。入るぞ。くれぐれも勝手に動くなよ」
お読み下さりありがとうございます。
律を暴れさせたい。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!!




