他人のふりはしたくない
「ばっ……!お座り下さい聖女様。どうか大人しくしていていただけますか?」
エルに肩を押され、わたしは強制的に椅子に押し戻された。
ー……今普通にバカって言いそうになってたよねエル。
「そんなもの、さっさと追い払えば良いであろう」
報告に来た者を、国王は睨みつけて言った。
追い払う、という言葉に、わたしはガバッと顔を上げて、不安と焦りのこもった目で国王に視線を送った。
「勿論そのように対処しようと致しました。しかし、パーティーメンバーのひとりが、自らが転移者であると主張しておりまして……それが事実なのだとすれば、下町に帰すわけにはいかず……」
「なんだって?!」「転移者が何故下町に?」「嘘に決まっている」
皆が顔を合わせてコソコソと話し始め、部屋にざわめきが響く。
「なるほど、でしたら国王、このようにするのはいかがでしょう?監視をつけた上で、その自称転移者とやらを貴族街に入れましょう。そして、魔力検査にかけ、その証言が真実か確認するのです」
国王の王太子である、確か……アルクと紹介されていた男が、そう提案をした。
国王は、少し考える素振りをみせ、数秒後に咳払いをして言った。
「良い、そのようにしよう。お前、きいておったな?その転移者とやらを貴族街にいれ、教会に連れて行き直ぐに魔力検査を受けさせなさい。無論、その他のパーティーメンバーが貴族街へ足を踏み入れることは断じて許さぬ。もし本当に転移者であったならばその時はその者の事情を聞こう。」
「はっ!!承知致しました!失礼致します!」
報告にきた兵士らしき音が、きびきびとした動きで部屋を後にした。
「しかし何故、聖女が召喚されたことを下町の人間が知っているのでしょうね。しかも昨日召喚されて、こんなぴったりのタイミングで……とてもイタズラだとは思えませんが」
アルクが国王に首をかしげている。
そうか、高野さんは転移魔法に失敗したことを隠して、わたしが昨日普通に貴族街に召喚されたってことにしてるから、ここの人たちはわたしが昨日この世界に来たばかりで、下町に足を踏み入れるどころか、下町の存在すら知らない女の子だと思ってるのか。
「……うむ。下町の人間と聖女の関わる隙はなかったはずなのに、咲久という名前までも知っていたときた。おかしい、説明がつかぬな」
国王がゆっくりとわたしに視線を移すと、他の皆の視線もわたしに集中した。
「えっ……」
どうしよう、高野さんが転移魔法失敗したこと必死に隠してたのに、今本当のことを話してしまったらさすがにまずいよな……。
少なくともここにいる人たちよりは、高野さんやレミの方が信頼できるし、あの人たちを敵にまわしてしまったらいよいよ私の居場所が無くなる気がする。
でも律とは会いたい。
他人のふりはしたくない。
「召喚された時に、ずっと一緒にいたいって強く願った相手がいました。もしかしたら願いが届いて、一緒に来ちゃったんじゃないかな……なんて」
これで、高野さんの失敗ではなく、わたしという聖女の不思議な力で、もう1人この世界に連れてきてしまったーということにできたのでは。
それに、こう言えば、律に会わせてもらえるだろうし。
「……聞いた事のない事例だが、其方は聖女だ。完全にないとは言いきれないな。まぁ良い、この件に関してはその者が本当に転移者であると証明された時に考えよう」
国王が席を立ち、アルクもそれに続いて立ち上がった。
「では皆、本日も国のために、王家の誇りを持って業務に励みたまえ。そして聖女よ。本日から聖女教育が始まるであろう。よく励むように」
国王が、そう言い残し部屋を出ると、他のメンバーもガタガタと席を立ち、解散し始めた。
わたしは、「立っていい?」と目線でエルに聞く。
視線に気づいたエルが、ふぅ、と息を吐いて言った。
「部屋に戻りますよ、聖女様。勉強の時間です」
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