居心地
エルが国王に向けて膝をついたので、わたしも咄嗟に真似をした。
すると、ただえさえ険しかったエルの表情がさらに歪み、「聖女様が膝をついてはなりません!」というエルの声が部屋中に響き渡る。
「ご、ごめん!」
慌てて立ち上がってから気がついた。
そういえば謝るのもだめなんだっけ。
もう怖くてエルの顔がどんな顔をしているのか確認することすらできない。
これだけ人がいるのに気持ち悪いくらい静かなこの空間で、全方位から視線を感じる居心地の悪さといったら尋常じゃない。
「アルセリオ=ルシエル。今朝だけで、随分と聖女と仲を深めたようだな」
「はい。気さくな方でいらっしゃいまして、恐れ多くも親しげに接して下さいます」
全く恐れ多そうではなかったけどな……。
でもよかった、嫌われてはいない……のかな。
「しかし驚いた。エルと呼ばれていたな。もう愛称で呼び合う仲になっているのか。君は優秀だが、コミュニケーション能力に関しては長けていないと聞いていたから側近にするにはどうかと思っておったが……要らぬ心配だったようだな」
えっ、いや、要らぬ心配じゃないです要る心配です。
変えてもらえるなら変えて欲しいです側近!
そもそも呼びづらいから愛称つけちゃったけど若干嫌そうな顔してた気がするし、全然良い関係になれそうにないですわたしたち……!
ーと言えるはずもなく。
「さぁ聖女よ、席に着きなさい。ルシエルも、聖女が望んでいるのだから、彼女の近くにいてやりなさい」
国王に言われ、わたしが席に座ると、その後ろにエルが立った。
「さぁ、朝食だ。聖女様と共に食卓につけるこの瞬間を、皆待ちわび、昨晩はよく眠れなかったことだろう」
いや絶対嘘でしょう。
皆そんなキラキラした目してないって。
「我が国の、豊かな恵に感謝して。いただきます」
『我が国の、豊かな恵に感謝して。いただきます』
国王の言葉に続いて、その場の人たちが一斉にリピートした。
私も慌てて手を合わせる。
とりあえず目の前にあったスープを飲んでみる。
ー……普通だ。塩と野菜?パーティーメンバーで行った居酒屋のスープの方が美味しい。
「聖女よ」
「はい!」
びっくりしたスープ噴き出しそうになった。
「昨日はよく眠れたか?」
「あっ、そうですね……快適でした」
さすがに寂しくて眠れなかったなんて言えるはずがない。
わたしはへらっと笑って答えた。
「それならば良い。もし必要なものができたら言いなさい、できるかぎり用意しよう」
わたしはぺこりと頭を下げ、スープをすする。
「父上、聖女様は緊張しているようにお見受けします。今この場でテーブルについているメンバーと聖女様は、今後も深く関わっていうことになるでしょうし、打ち解けも兼ねて皆を紹介するのは如何でしょう?」
ひとりの男性が落ち着いた声でそう言った。
今の今まで国王以外誰も言葉を発していなかったから、あぁみんなちゃんと会話が通じる人なのかと安心する。
「良い。そのようにしよう。私は知っての通りこの国の王だ。国王と呼んでくれて良い。そして今発言したこの者が我が息子であり王太子のアルク、その隣が娘のレイリとサーシャ、そして妻のー」
やばい、覚えられるはずがない。
計12人紹介されたが、3人目くらいからもう諦めてしまった。
「どうだ、覚えられたか?」
「……えー、皆さんよろしくお願い致します」
わたしは苦笑いを隠すように頭を下げる。
ーコンコンコン!
その時、ドアを勢いよくノックされた。
「何事だ!食事中だ、後にしなさい」
「いえしかし国王様!咲久を取り返しに来た、などとほざく冒険者たちが貴族街の入口で騒ぎを起こしておりまして」
「咲久……聖女のことか」
律たちだ……!!
わたしは思わず椅子から立ち上がって、目を輝かせた。
お読み下さりありがとうございます!!
ようやく咲久と律を再会させることが出来そうです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!




