王族の食事
「聖女様、できましたよ」
エルに身なりを整えてもらって、鏡を見たわたしは思わず「おお……!」と声をもらした。
血色感のあるツヤのある肌と、広い範囲に塗られた控えめ薄ピンクチークが醸し出す多幸感。
クリンと上がったまつ毛と、プルっと存在感が出た唇。
そして極めつけは、ふわっとした緩めの上品なハーフアップ。
……すごい、なるほど、これが聖女メイクか。
中高校則でメイクは禁止だったし、バイトを初めてようやく接客する身としての礼儀でうっすいメイクをするくらいしかしたことがなかったから、なんだか自分の顔じゃないみたいだ。
「すごい!すごいね、エル!聖女っぽい!」
「聖女です」
「あ、そ、そうだったよね!ごめ……じゃなくて、あはは」
しまった、感動のあまりはしゃいでしまった。
聖女っぽくない振る舞いをしたらまたエルに怒られてしまう。
わたしは慌てて口を閉じて俯く。
「いつまでそうしているのですか?」
「えっ」
「朝食に向かいましょう。連絡魔法で、準備ができて皆揃っていると報告がきました」
「あっ、はい!すぐに!」
わたしはガタンと椅子から勢いよく立ち上がる。
するとエルに、「音。そんな風に立てるものじゃありません」と睨まれた。
……またやってしまった。
義務教育に聖女の振る舞いなんて項目なかったんだから、少しくらい見逃してほしい。
わたしはもう一度座って、音を立てないように気をつけながら再度立ち上がって、恐る恐るエルの顔を見る。
どうだ、今の立ち方は結構良かったのでは……?
「何故また座ったのかと思ったら……別にやり直さなくても、次から気をつけて頂ければ結構です。聖女様は、無駄な動きが多すぎます」
「あ……そうだよね、気をつけるね……」
やばい、朝から大ダメージを受けまくっている。
ー息が詰まる。
「早く行きますよ」
そう言ってわたしに背を向け歩き出したエルの後を、わたしは重い足取りで追いかけた。
食事をとる部屋は、聖女の部屋の1階下にあった。
だんだん良い匂いがしてきて、ひとつのドアの前で立ち止まったエルは、わたしに向き直して言った。
「いいですか?大きな声や音を上げたり、様々なことに過剰に反応したりしないでくださいね」
わたしは大きく首を上下に振る。
エルは、眉を八の字に歪ませて、「はぁっ」と大きくため息をついた。
……あーもう怖い。
人にため息つかれるのって結構きつい。
ーコンコンコンッ。
「失礼いたします。聖女様をお連れ致しました」
「来たな、入れ」
ドアが、重い音を立てて開いた。
大理石の床を照らすシャンデリアの光が、長い食卓の銀食器に反射してきらめいていた。
食卓は十数メートルもある長机。全員が同じ卓を囲んでいても、端と端では会話が届かないほど広い。
真っ白なクロスの上には、焼きたてのパン、透き通る琥珀色のスープ、香草を添えた肉料理が美しく並べられている。
国王をはじめ、昨日見かけた顔が何人かいる。
それにしても、使用人っぽい人を除いてもざっと15人くらいいるのに、誰も何も話さず、背筋を正して正面を向き、視線だけわたしの方に向けている様があまりにも怖い。
「えっと、エル……わたしは……」
「聖女様は国王様のお隣へ」
「えっ、エルは……?」
「私は側近ですので、この場で食事は致しません」
わたしが席へ向かうと、エルは私とは逆方向に体を向けて歩き始めた。
わたしは慌てて踵を返して、エルの袖を掴む。
「エル、いなくなっちゃうの?!」
エルの無表情が崩れ、瞳が驚いたように揺れた。
やばい、あれだけ釘を刺されたのに、早速聖女らしくないことをしてしまった。
だって、こんな緊張感のある状況でひとりであの席で食事を摂るのはさすがに厳しい。
何かマナーとかあればその都度教えてほしいし、何もわからずやらかす自信があるのでその時はフォローしてくれたり……なんて甘えた考えだっただろうか。
「アルセリオ=ルシエルよ」
国王の、低くよく響く重厚感のある声が、エルの名前を呼んだ。
エルの体がビクッと揺れ、彼女は国王の方に膝をつき、頭を下げた。
わたしは、ただただおろおろと国王とエルを交互に見ることしかできなかった。
お読み下さりありがとうございます!
ここまで、ブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!!




