側近
「ー様。聖女様」
「ん……」
聞き覚えのない声に、わたしはゆっくりと目を開けた。
「ーうおあ?!誰?!」
ベッドの横に立っていた見知らぬ人影に、わたしは飛び起きた。
寝てる時に知らない人が勝手に入ってくるとか、プライバシーないのかこの部屋!
というか普通に怖い!
「お目覚めですか?」
「あ……え、はい、めっちゃ、目覚めました。すっごい目覚ましでした……」
「目覚まし?わたくしの声がですか?」
「いや……なんていうか、存在が」
「変わった方ですね」
……かなり一般的な反応だと思うんだけど。
わたしの警戒心のこもった視線に気がついたのか、その人は、わたしに深々とお辞儀をして言った。
「わたくし、本日より聖女様の側近としてお傍に仕えさせて頂くことになりました。アルセリオ=ルシエルと申します。どうぞよろしくお願い致します」
紺色の長い髪が束ねられたポニーテールが揺れる。
育ちの良さそうな振る舞いと、少しつり目で高い鼻、綺麗な顔が相まって、お嬢様の様に見える。
年齢はわたしより5歳くらい上かな……。
でも、声は少し低めで淡々としていて、喋ると一気にクールになって、印象がかなり変わる。
側近が付くって本当だったのか……今後ずっとこの子といっしょってこと……?
ーうっ、やりずらいかもしれない。
「あ、挨拶ありがとうございます。わたしはーあっ、ちょっと待ってて下さい!」
自己紹介しようとして、自分が寝起きで髪ぼさぼさで顔すら洗ってないことを思い出し、ベッドから飛び起きて洗面所に走った。
超特急でなんとかもろもろ整えて、改めて彼女の前に立つ。
「紺野咲久っていいます。えっと……よろしくお願いします?ごめんなさい、あなたの名前をもう一度……」
「アルセリオ=ルシエルでございます」
「あぁ……長いんですね」
「貴族ですので。アルセリオは家名ですね」
「えっとじゃあ、エルって呼んでもいいですか?」
わたしがそう言うと、彼女は一瞬固まった。
やばい、略すのは感じが悪かったか?!
失礼だった?!
「あ、あの!全然!フルネームで呼んでほしければー」
「いえ。エルと呼んでいただいて大丈夫ですので」
「あ……はい」
本当に?!その反応本当に大丈夫な時の反応?!
あー……やりずらい。
「聖女様は、わたくしに敬語を使わなくて結構です。むしろ立場上、敬語を使われると困ります。それと、先程の、驚いて大声を上げたり、ベッドから飛び降りたりといった聖女として相応しくない振る舞いはお控え下さい」
「あ……すみませ……」
「わたしく以外の側近も、本日の朝食時に紹介されるかと思います。食事を撮る場所は下の階にあります。さぁ、行く支度をしましょう」
こ、怖い……。
わたしは今後に絶望しながら朝食を食べにドアへ向かう。
こんな状況でもお腹はすくんだから呆れる。
その時、エルにガシッと腕を掴まれた。
「ひゃっ!」と声がもれて、わたしの身体はビクッと跳ね上がる。
しまった、さっき怒られたばかりなのに、もう声を上げてしまった。
「あ、すみません、ちょっとびっくりして、許しー」
「驚いたのはわたしくの方です。まさかその状態で朝食へ行くおつもりですか?」
「えっ……だめかな」
一応、洗顔して髪の毛とかして、服もクローゼットにはいってたやつに着替えたんだけど……。
エルは、盛大なため息をついて、私の手を引いてドレッサーに座らせた。
「降ろしたままの髪、疲れが見え見えのくっきり刻まれた目の下の隈。色の付いてない唇。良いわけないでしょう、あなたは聖女ですよ?」
言われてみれば確かに酷い顔だ。
昨日、結局布団に入ってからも全然眠れなくて、やっと眠りにつけたのは明け方だったんだよな……。
そんなんで、疲れが取れているはずもない。
「メイクをしますので、じっとしていて下さい」
「はい、すみません……」
「敬語はやめるよう言ったはずです。それと、謝罪もおやめ下さい」
「あ、すみま……じゃなくて、わかった……」
こうして、なんとも居心地の悪い空間で、わたしの聖女としての初日は始まってしまったのだった。
お読み下さりありがとうございます!
エルは今後めちゃくちゃ出てくる予定です。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!!




