ひとりの夜
2人が立ち去ると、ひとりでいるには広すぎる部屋は静寂に包まれた。
わたしは、ゆっくりとベッドに近ずいて、ぽすん、と腰を落として、「ふぅ」と息を吐いて部屋を見渡す。
机に椅子、クローゼットに何枚もかかっている全く同じ白いドレスの様な服、それに、小部屋が2つ。
トイレと……お風呂か。そうだお風呂入らなきゃ。
ーあぁ、やばい。
どうしよう怖い。
ひとりは怖い。
「あーーもう!!静かすぎるのが悪い!あと薄暗いのが悪い!」
わたしはベッドから降りると、部屋の電気のスイッチっぽいボタンを押しまくった。
お風呂、トイレ、ベッドライト、卓上ライト、とにかくつけまくる。
ー明るくなった。
あとはこの静けさをどうするか……。
よし、歌おう。
わたしは、歌いながらお風呂に入った。
タオルやパジャマもお風呂場に上質そうな物がしっかり用意されていた。
「よっしゃー!すっきりしたー!わざわざ温泉行かなくても部屋に綺麗なお風呂があるって最高すぎる!」
わたしは綺麗になった身体で、思いのままベッドにダイブする。
感動するくらいふっかふかなベッドに、大興奮で顔をうずめる。
そういえば、アパートには電気もなかったし、ベッドもカチカチだったし、やっぱり聖女って得しかない。
「……ほんと、めっちゃ最高……」
わたしは細い窓から外を眺める。
街の灯りをみて、少しほっとした。
みんなまだ起きてる。
あまりにも遠すぎて、街の喧騒も何も聞こえない。
押し寄せてくる不安が、涙となって視界を歪ませた。
こっちの世界に来てから、夜が怖くなったことなんてずっとなかったのに。
眠れないことだってなかったのに。
律が隣にいてくれる安心感を、律の体温を、心地よいぬくもりを知ってしまったせいで、ひとりが前よりもっと怖くなってしまったんだ。
昨晩があまりにも幸せすぎたせいで、暖かすぎたせいで。
ひとりで寝るには大きすぎるベッドのシーツをぎゅっと握って、昨晩の律の唇の柔らかさをふと思い出して、わたしは慌てて唇を噛む。
必死に堪えていた涙は、ぼろぼろとシーツに落ちて斑点が滲む。
いつからこんなに脆くなったんだ、わたし。
「早く来てよ律……律がいないと眠れない……わたしを弱くしたのは律なんだから、責任もっていっしょにいてよ……」
「サクー」
ーえ
律の声が聞こえた気がして、窓に飛びつく。
いや、ここ何階だと思ってるの。
わたしは子供みたいに泣きながら、「はは……」と笑って言った。
「バカか、わたしは」
掛け布団を頭まで被って、ぎゅっと目を瞑った。
眠りにつくまで、どれだけ時間がかかったのかわからない。
冷たい、寂しい、長い夜だった。
***
「正面から行こう」
かたわれの永遠のメンバーは、私と咲久の部屋で、どうやって咲久を迎えに行くか会議をしていた。
こっそり忍び込んで連れて帰るとか、貴族街にいるアンリーヌの伝手に手を借りるとか、サックの魔術具で洗脳して……とか、色んな案は浮かんだものの、その場だけは乗り切れても今後もっと面倒なことになるだけだと言う結論に至った。
完全に私を貴族街におびきよせる作戦だということは見え見えだけど、ここは真っ向から乗ってやるのが1番リスクが少ない。
貴族からの逃亡生活も、そう長く持つとは最初から思っていなかった。
まさかこんな最悪の形でばらばらに貴族街へ行くことになるとは思っていなかったけど。
「今日はもう遅いし、明日の早朝貴族街へ行きましょう。私たちもついて行くわ。門の中へは、転移者である律ちゃん以外は入れて貰えないでしょうけど」
「……っ。明日……」
「律ちゃん、今すぐ行きたい気持ちはわかる。けど、正面から堂々と行くことにしたなら尚のこと、こんな遅い時間に行ったら怪しまれて要らぬトラブルを生むだけよ」
「わかってる……。でも咲久は、夜が苦手で……今ごろもしひとりだったら……そうだアン姉!通信魔法で、咲久に声だけでも届けられない?!」
その瞬間、その場がわっと少し明るくなった。
全員で希望のこもった目でアンリーヌをみる。
「やってみるわ。距離があるから時間がかかるけれど……咲久ちゃんの波動は覚えたから、それを辿れば……」
アンリーヌは、何やらぶつぶつ言いながら、魔法を発動させている。
それにしても、位置情報とかじゃなく、今まで波動を辿って通信魔法届けてたの?!
「よし!繋がったわよ!さあ律ちゃん声をー」
「咲久!聞こえる?!」
咲久、と言ったところで、明らかなプツンという音が聞こえた。
切れた……?
「遮断されたわ……恐らく、外部からの魔術を遮断せる建物にいるんでしょうね……。残念だけど、2度目は無理そうだわ」
全員で肩を落とす。
私は、ダンッと机に拳を叩きつけて、歯を食いしばる。
自身の身体から黒いもやがでてきていることに気がついて、慌てて頭を振る。
「お、おい、律」
「わかってる。大丈夫、ちゃんと明日を待つ。ひとりで暴走したりしない。明日早朝、咲久を迎えに行く」
「成長したわね、律ちゃん」
「で、咲久に会えたらー」
わたしは黒いもやを放ちながら笑って付け足した。
「咲久を逃げないように抱きしめて、そのまま泣くまで叱りつける」
お読み下さりありがとうございます!!
ようやく律たちを登場させられました。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!!




