違和感
高野の声で、疲労で足元ばかりを見て歩いていたわたしは、ようやく顔を上げた。
そして、思わず「うわ‥‥‥!」と声を漏らす。
聖女の塔は、空へまっすぐと伸びる純白の石造りの塔だった。
細く高い円柱形をしており、壁には繊細な彫刻が施されている。
細長いアーチの窓が規則正しく並び、頂上には尖塔と小さな鐘楼がある。
塔全体は神聖で静かな雰囲気をまとい、遠くからは天へと続く一本の白い柱のように見える。
「え‥‥‥これが、わたしの家ですか?」
「そうだ。ここの最上階が君の部屋になる」
「へえ‥‥‥。すごいですね。掃除だけで一日終わりそうな‥‥‥」
「バカなの咲久ぴょん。聖女が掃除なんてするわけないでしょ?」
「あ、すみません」
わたしがあんぐりと口を開けて塔に圧倒されていると、高野が手招きをしてきた。
「ほら、入り口はこっちだ」
「あっ、はい!」
わたしたちはさらに塔へ近づく。
ー‥‥‥ん?
近づくと、なんだか違和感があった。
壁には美しい彫刻が並ぶ一方で、どの窓も人1人通れないほど細い。
外を眺めることはできても、窓から出入りすることは不可能そうだ。
これほど大きな塔なのに、入り口は高野が今立っているドアたった一つしかないように見える。
しかもその重厚な扉には、幾重にも鍵が施されており、その両脇には警備らしき厳つい男2人が並んでいた。
なんだろう、この、嫌な違和感は。
そうだ、これじゃあまるでー
「聖女様!お話は伺っております。さあ、どうぞ中へ!お前たち2人が案内係だな?決して聖女様に無礼のないように。本来であれば、この神聖な塔に足を踏み込めるのは、許された特別な者だけなんだ。聖女様を部屋までご案内次第、即刻立ち去ってもらう」
「はい、承知しております」
レミの不服そうな表情を隠すように、高野がレミの前に立って男に爽やかな笑顔で答えた。
既に無礼のないようにって、無礼されまくっている気がするけど。
特にレミに。
「お、お邪魔しまーす‥‥‥」
「ふっ、あっは!咲久ぴょん、お邪魔しますはウケる!」
「えっ、いや癖で‥‥‥もう、いちいち笑わないでよ」
「こら、はしゃぐなレミ!」
高野は迷わず塔の内部へと進んでいく。
わたしとレミもそれに続いた。
縦に長いと思っていたけど、いざ入ってみれば直径もかなり広く、そして静かだった。
人の生活を感じる音は何一つしない。
わたしたち3人の、コツンコツンという足音だけが高く響いている。
高野が、螺旋階段に足をかけた。
「うっ、これ登るんですか?エレベーターとかって‥‥‥」
「ない!」
「ですよねすみません」
終わりの見えない階段に、わたしは顔をしかめる。
出入り口は今入ってきたあの扉だけみたいだし、ここで生活するということは、この階段を毎日上り下りするってこと?!
「はぁっ…はぁ、、どうにかなりませんか、この階段。魔術とかで」
わたしは疲労の蓄積された体に鞭を打つように、必死に足を上げながら、高野に文句を垂らす。
これを毎日は、流石に想像したくない。
だって、普通にビル20階〜25階分くらいはありそうだし、実用性無さすぎでしょこの塔!
「咲久ぴょん情けなーい。このくらいで何言ってんの?レミたち、毎日もーっとキツイ訓練受けてるんですけど」
「う……嘘でしょ……はぁっ、死ぬ……」
「安心しろ、咲久。下の階はほとんど君の側近や世話係、あと料理人に護衛なんかが住む部屋だ。君の行動範囲は最上階の君の部屋と、その下の階の訓練室くらいだ。このような移動は今日くらいだから心配するな」
そっか、よかった。
……え、あれ?
「でもさ高野さん、外に出るときー」
「ほら着いたぞ!最上階、君の部屋だ!」
高野の声で、わたしはバッと顔を上げた。
ようやく休める!
最上階には、階段を登りきった正面に扉がたったひとつだけあった。
高野が先程警備の男から受け取った鍵を使って、扉を開ける。
部屋の中は、白を基調とした質素な家具と天蓋付きのベッドが置かれていた。
いくつもある細い窓から、月明かりが差し込んできている。
生活感はなく、静かで物寂しい、無駄に広い空間。
ようやく安らげる場所にたどり着いたと思ったのに、これじゃああまりにも落ち着かない。
「あ、あの、私って今日ここでひとりー」
「そうだ、ようやく休めるぞ。よく頑張ったな、咲久!詳しいことは明日説明があるだろうから、今日はもう何も考えずに休みなさい。お腹は空いてないか?」
「あ、はい……」
「えー?もう降りるの?レミもうちょっと探索ー」
「レミ!降りるのが遅いと警備に怪しまれるだろう。また今度だ、今日は戻るぞ。それと咲久、この石に私の魔力が込められているから、何かあれば、最初に高野と呼んでからこの石に話しかけなさい。私の元に声が届くはずだ」
高野はわたしに石を渡すと、不服そうなレミの手を引いて、手を振った。
「それじゃまたねーん!咲久ぴょん!」
レミの声を最後に、重い扉はガチャンと閉まり、1人の夜が始まってしまったのだった。
お読み下さりありがとうございます!
作者は、遠回りしてでも階段じゃなくてエスカレーターを探します。
エレベーターは、心霊体験をしたことがあるので、それ以来少しかなり結構苦手です。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!




