慈悲じゃない
「ちょっと待って下さい!!」
連行されるルイに追いついたわたしは、ルイの身体を拘束している男たちの中の、ひとりの服の袖を掴んで言った。
「聖女様?!いかがされましたか?」
ルイを連行していたその場の人たちは、わたしが追いかけてきていた事に気がつくと、ルイを拘束する手はそのままに、サッとわたしに頭を下げてきて、わたしは引きつった顔で「うっ……」と声を漏らす。
ーなにこれ、毎回話しかけるだけでこんな風に頭下げられたりする感じなの……?
ただえさえコミュ障で言葉にするのが苦手なのに、これじゃあ余計に話しずらい。
「聖女様、少し走っただけでそんなに息切れされて。まだ体内で光の魔力の制御が上手くできていないのでしょう。どうかご無理なさらず、呼びつけられたら我らが参りますので」
ー……いや、ただの運動不足ミジンコ体力なだけなんだけれども。
すぐにレミと高野が私に追いかけてきて、「何してんの咲久ぴょん!」と小声でドヤされた。
「聖女よ、戻って来なさい。何をしているんだ」
後方から、国王の呼ぶ声も聞こえる。
わたしは、息を整えてから言った。
「あのわたし、別にルイさんに対してもうそんなに怒ってないです!……ので、罪を軽くしてほしくて」
ルイがはっとして、「聖女様……」と縋るような目でわたしを見てきた。
わたしはその視線に、心底不快だという表情で返す。
勘違いしないでほしい。
別にルイのためにどうこうじゃなくて、わたしの発言のせいで誰かが死刑になるなんて、後々わたしが精神的に病むから、それを避けたいだけだ。
「聖女よ。君の優しさには感服した。しかしー」
「被害者はわたしで、その被害者が怒ってないって言ってるんですから、それでいいじゃないですか!……と、思うのです………」
なんだか、懐が深い優しい人みたいな、的外れな賞賛の空気に耐えられなくなり、国王の声に重ねるようにわたしは続けた。
その後、国王の髭を撫でるジョリジョリと言う男と唸り声だけが、数秒続いた。
ー……やばい、国王に反発するのは、流石にまずかったんだろうか?
「聖女様!ありがとうございます!その空のように広く美しい貴方様のお心!わたくしは心から自身の行いを悔い、改め、今後貴方様を慕うことをー」
何やらルイが必死に訴え始めた。
まぁ今ここでこのまま連行されれば最悪死刑なのだから、そりゃあ必死にもなるか。
嘘くさい言葉をつらつらと並べ、鼻水を垂らしながら目をかっぴらき、わたしに手を伸ばし近づいて来ようとしている所を、護衛に捕まっている。
わたしはあまりにも無様な光景に、ルイから目を逸らす。
足を引っ掛けた人と、引っ掛けられて転びそうになっちゃった人。
ただそれだけなのに、なんでこんなことになってるんだ、本当に理解が追いつかない。
「聖女咲久がそこまで言うのならば……いいだろう。罪を軽くしよう。しかし次はない。今後聖女に手を出したら死刑だ。この場にいる他の者たちも例外ではないぞ!聖女に無礼を働いた者は即刻死刑だ!」
これで、知らない誰かから睨まれたり、ちょっかい掛けられることはないだろうからありがたい……ありがたいんだけど、なんかもう注意というより脅しになってて、これじゃみんなわたしと話すだけで萎縮しちゃうんじゃ……。
「咲久よ」
「あっ……えはい!」
「君の側近は今日中に決め、最も君にとって適切であろう者を送ろう」
てかいらないんだけどな、側近とか……と言うのは場違い発言だということくらいはわたしにも分かるので、「ありがとうございます」と苦笑いで答えておく。
「高野よ。王族街にある、聖女の塔はわかるな?特別に、王族街へ入ることを認めよう。君が聖女をそこへ案内するように」
「承知致しました」
貴族街の中に、王族街とかいうエリアもあるのか。
なんだかいちいち身分で生活圏を仕切りたがる国だな……面倒くさい。
「え、待ってレミですら王族街入ったことないんだけど?!レミも行く!てか聖女の塔も噂でしか聞いたことないし絶対行きたいんですけどー?!」
レミが小声で可能なかぎりの限界まで大興奮して言った。
高野が眉間に皺を寄せ、ため息をつくと、テンションが上がって揺れている頭をワシっと掴む。
「レミも共に付いてよろしいでしょうか。わたくしは男性ですので、女性の寝泊まりするお部屋に、ひと時であっても2人きりになるわけにはいきません」
国王は、「ふむ、それもそうだな」と言って、顔を上げた。
「良い。2人で聖女咲久をお連れしなさい」
もうなんでもいいから早く休ませてくれ。
わたしは心の底からそう思った。
お読み下さりありがとうございます!!
なかなか律を出すまでいかないので、次こそは律登場させたいです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!




