聖女公開
10秒ほど、場が震えるほどのざわめきに包まれた。
わたしは全身に鳥肌が立っていくのを感じながらも、なんとか脂汗を流しながら聖女の微笑みをキープする。
「うっおおっほん!!」
国王の癖強めの咳払いで、あれほどうるさかった貴族たちが一瞬で黙り、再び先程と同じ居心地の悪い静寂が戻った。
しかし、貴族たちがわたしに送る視線が、ここへ入ってきた時とまったく違うことは感じる。
国王の、髭に隠れた口が動いた。
「高野」
「はい」
「確かなんだな」
「はい、間違いございません。魔力検査を行い、明確に結果が出ております。こちらにいる転移者は、正真正銘聖女でございます」
……わたし、あなたのとこで魔力検査してないけど。
めっちゃまっすぐな瞳で嘘つくじゃんこの人。
「さくぴょん、許してやってよ、魔力検査って誰であっても1回しかできないようになってるから、再検査できないの。さくぴょんは裏ルートからやったんだろうけど、ここで正式に魔力検査したってことにしないとまずいでしょ」
わたしが不信感を抱いた目で高野を見ていると、レミが即座に耳打ちしてきた。
そっか、確かに髪色が変化するような検査、何度もできるようなものじゃないか。
「聖女よ」
「あっ、え、はい!」
「名を何という」
「紺野咲久と申します!」
「分かった。サクよ、私の前まで来なさい」
「えっ……」
わたしが助けを求めてちらりと高野とレミに視線をおくると、高野が頷いて、レミはわたしの背中を「行け行け!」とトントン叩いた。
……この2人、絶対いざと言う時助けてくれないだろ!
諦めて、恐る恐る国王の前まで歩く。
うわぁ……近くでみたらとんでもなく体格いいな、おじいちゃんなのにデカイ、怖い。
「ひぃっ!!」
わたしの肩に国王が手を置いた。
思わず声をだしてしまい、慌てて口を両手で塞ぐ。
「ここに、聖女咲久の召喚を宣言する!」
『うおおおおおおお!!』
再び、その場が貴族たちの声で震えた。
耳が痛いほどの激しい拍手が湧き上がる。
高野とレミが口パクで、「聖女の微笑み!」と指示しているが、こんな大勢に注目されて、肩には見知らぬおじさんの手が置かれている状況で笑えるほど、わたしはメンタルが強くない。
ひと通り盛り上がった後、国王はわたしの肩からようやく手を外し、まわりにいる側近であろう者たちに何やら指示を出し始めた。
その隙に、わたしは早足でレミと高野の元へ戻る。
「ちょっと、怖いんですけど!怖すぎるんですけど……!」
「怖いのはさくぴょんの顔だよ、何あの笑顔、苦笑い通り越して悪魔の微笑みになってたよ?」
「言ってやるなレミ、あんな状況誰でもそうなる。まあでも、作り笑いなら得意とか言ってた割に、全ての感情が顔に出てたな」
言いたい放題いいやがって……。
つっこむ気力もないわたしは、不満を詰め込んだため息で流す。
「聖女サクよ」
「は、はい!」
「これから君の部屋へ案内する。混乱していることだろう、今日はゆっくり自室で休むと良い。明日から忙しくなるからな」
「あ、ありがとうございます」
やっと休める……。
それにしても、無能の召喚は失敗だとかなんとか言ってた時とはうって変わって、子供に話しかけるような優しい声のトーンになっていて気持ち悪い。
「この者に、部屋まで案内してもらいなさい」
「ー……!!」
国王がそう言ってわたしの方へ送ったのは、足を引っ掛けてきたあの男だった。
男は、「やらかした」という心の声がわたしに伝わるくらいに見るからに動揺した様子で、わたしの前に跪いて言った。
「聖女サク様、国王の側近のルイと申します。わたくしが部屋までご案内致します」
文句の一言でも言ってやろうと思ったけど、もちろんわたしにそんな度胸はないし、何よりこんな様子みたらむしろ同情してしまって何も言えない。
……足引っ掛けてきたことは水に流そう。
「はい。えっと……よろしくお願いしまー」
「ちょっと待って下さい国王。この男にさくぴょ……聖女咲久様を任せるのは、信用できません」
レミのよく響く声に、ルイの表情がピキリと強ばる。
わたしはレミに向かって、顔の前で両手をブンブン振って、「いい!いいよわざわざ言わなくて!!」と必死に伝える。
しかしレミは、ニヤリと悪い笑みを浮かべて声を張り上げた。
「この男、先程咲久様に足をひっかけて、あらぬことか、転ばせようとしたのです!」
お読み下さりありがとうございます!!
見事に絶賛5月病中ですが、雨が少なくて助かります。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!!




