お披露目
高野とレミに連れられて、貴族街の中でも1番立派で、無駄にデカい、お城のような建物の中に入っていく。
そして、これまた無駄にデカい、ゾウでも通るのかと疑うほどの扉の前で、2人は立ち止まった。
扉の両側に、イカつい護衛が立っていて、目が合うとギロッと睨まれたので、慌てて視線を逸らす。
貴族街の人たち、なんでみんな問答無用で高圧的なんだよ……。
あぁ……下町に帰りたい。
「よし、咲久」
「は、はいっ!」
「この中に国王がおられる。伝達魔術でこれならお披露目に行くとは伝えているが、君が聖女であることはまだ伝えていない。君は、何か聞かれないかぎり、ただ黙って聖女らしく微笑んでいれば良い。できるか?」
「あ、聖女らしく……はちょっとわかんないですけど、作り笑いなら得意です」
「よし」
よし、じゃないよ。
怖すぎる。
唇を噛むわたしの肩に、レミがポンっと手を置いた。
「大丈夫、レミが付いてるよん」
……レミに対してなんの信頼も絆もないのに、そんな言葉で1ミリも「ほっ……」とはならないんだけど?!
突っ込むほどの余裕もないわたしは、渋い顔で「どうも」とだけ答える。
「よし、開けてくれるか」
高野がそう言うと、2人の警備がドアノブに手を掛け、巨大な扉が重々しく開いた。
広く、白く、ギラギラとしたその部屋の1番奥に、いかにも偉そうなおじさんが座っている。
その傍に、従者なのか側近なのか、国王を囲むように並んでいた。
国王まで続くカーペットの脇には、位が高いことがパッと見で見て取れるお貴族様方がズラリと立っていた。
控えめに言って、今すぐ踵を返して逃げ出したい。
「咲久ぴょん、聖女の微笑み!」
レミに脇をつんつんされて、小声で注意された。
わたしは泣きかけていた表情筋を、慌てて引き上げる。
それにしても、小さい頃に、猫背になっていて「姿勢!」と言われたり、食事の時に手を添えていなくて「左手!」と言われたりしたことがある人はいるだろうが、「聖女の微笑み!」と注意された人はどこの世界でもわたしだけだろう。
……普通に意味わかんないし。
カーペットの前で、高野もレミも一礼した。
それを見て、わたしもとりあえず同じ様にしておく。
日本で、道場に入る前とか、鳥居の前で礼するのと同じ感覚なのか……?
偉そうな方々に上から下までじろじろと見られながら、わたしたちは国王の方へとゆっくりと足を進めた。
ひそひそと何か言われているけど、どうせ良くないことだというのはこの貴族街に来て、貴族と関わった数分で充分知ったので、耳に入れないようにする。
国王の前にある、おそらく「これ以上近ずくな」という床に貼られた印の少し手前で、高野とレミが跪いて頭を下げた。
ー……え、これわたしも跪くべきだよね多分。
見様見真似でふたりに続く。
「おもてをあげて良い。発言を許す」
国王の低く重い声が響き、2人が跪いた状態のまま顔を上げたので、例によってわたしも真似をする。
「転移者召喚の儀、遅れたことを深く謝罪致します。本日、無事成功致しましたことを、報告させて頂きたく参りました。ここにいる彼女が、此度の転移者でございます」
なるほど、召喚の儀とかいうやつの失敗をなかったことにして、そもそもわたしは今日召喚されたということにするのか。
はーん、そうですかそうですか、と思いながら高野を横目に見ていると、高野がわたしのほうをチラリと見た。
わたしは慌てて高野から国王へ視線をうつし、無理矢理にこりと微笑む。
すると、国王の隣に立っていた男が「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「儀式が遅れた挙句、召喚できたのはそんな髪色の薄い軟弱そうな女か。時間をかけて無能を出すとは、そんなもの儀式は失敗したのと変わらないではないか?」
……絵に書いたようなくそやろうだなこの男。
わたしは笑顔が引き攣りそうになるのを必死に耐える。
その男の隣に立っていたもう1人の男が、「魔力の無駄使いだったな」と言って眉毛を下げ、嫌味ったらしく笑った。
そいつの顔をみて、わたしの口角がぴくりと震える。
ー……あいつ、さっきレミとふたりで歩いてる時、足引っ掛けてきた奴だ。
わたしは反射的にレミの方を見る。
レミは、何故か笑いを堪えていた。
もう怖いなんなのこの子。
地獄のような空気の中、タカノは落ち着いた口調で続けた。
「彼女の髪色が薄いのは、魔力が少ないからではありません。彼女の体内の魔力のほとんどが、光の魔力の象徴である、白色だからでございます」
横にも縦にも奥にも広すぎて、声を反響しない静かすぎた部屋が、一瞬にしてざわめきに包まれた。
「ここに、聖女の召喚を報告致します!」
その騒がしさに負けないよう張り上げた高野の声が、部屋に響き渡った。
お読み下さりありがとうございます!
苦手な夏の気配がします、5月病は避けたいです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!!




