責任
「タカノん、入ってもいいー?」
周りから向けられる冷たい視線に耐えながら、ようやく転移者棟管理長室という場所にたどり着いた。
レミが激しくドンドン扉を叩くと、「おー‥‥‥入れ」と、ドア越しでもやつれていると伝わるほど生気のない返事が返ってきた。
「ヤッホー、タカノん。今朝ぶり〜」
「ああ‥‥‥頼むから、もう少し穏やかにノックできないか?毎回、何事かと思って飛び上がるんだよ、うるさすぎて」
「はーい、ごめんごめん。でも、今回に関しては飛び上げってもいいくらい大事だし」
「‥‥‥そうだな。召喚の儀式を延期していると言うことにして誤魔化していたが、もうかなり不審がられていてこれ以上は召喚に失敗したことを隠し通せない。今日もいつになったら次を召喚するんだと詰められてな‥‥‥ちょうどこれからお貴族様に、正直に失敗したことを報告に行こうかと思っていたところだ」
ーこの人がタカノん‥‥‥。
幸薄そうな、気苦労の多そうな、でも絶対に優しいんだろうな、という顔をしている。
初対面なのに、疲れ果てたその表情から彼の抱える悩みの多さが伝わってきて、なんだか同情してしまう。
わたしがレミの背中からひょっこり顔を出して彼を観察していると、ばっちりと目が合った。
「君は‥‥‥!!」
「あっ、わ、わたし‥‥‥レミに連れられて、ここに‥‥‥」
彼の表情がわかりやすく明るくなり、目に光がさす。
ガタンと勢いよく椅子から立ち上がったと思ったら、ずんずんとこちらへ近づいてきた。
この世界の人たちはやたらと距離が近いしすぐ抱きついてくるので、反射的に身構えて後ずさったが、この人は常識人のようで、ただ握手を求められただけだった。
「転移者たちの最高責任者をやっている。高野だ」
わたしは差し出された高野の手を、恐る恐る握る。
「紺野咲久です。えーっと‥‥‥よろしくお願いします」
高野が自分の役職を言ってくれたので、わたしも何か言おうとしたけど、「かたわれの永遠のメンバーです」も、「聖女です」もなんだか気恥ずかしいし、一番しっくりくる「日本の女子高生です」も今は違うので、結局何も言えなかった。
「そうか、咲久というのか。君のことは知っている。レミが、君が聖女の浄化の力で集落を救ったところを見せてくれたからな」
「え‥‥‥?!」
「録画みたいなことできる魔法があるの。レミは優秀だから、そんなこともできちゃうわけ。すごいっしょ」
「すごい!ねえ、レミ!それ、後でわたしにも見せてくれない?みんなにすごかったって言われるけど、自分では全く記憶になくて‥‥‥どんな感じだったのか見て見たいんだよね」
「え?再生は一回きりしかできないから、もう見れないよ?」
‥‥‥そうだよね、魔法って消費するものだもんね。
がっくりしているわたしの傍ら、完全に元気を取り戻したっぽい高野は、わたしの肩にぽんっ、と手を置いて、何かを企んでいそうな胡散臭い笑顔で言った。
「それじゃあ早速、お貴族様にお披露目に行こうか」
「お披露目‥‥‥?貴族‥‥‥に」
わたしは、先ほど足を引っ掛けてきた貴族や、歩いているだけなのに睨んできていた者たちの視線が浮かび、背中が震えた。
お披露目って、そんな人たちばかりの場所で前に出て、見られるってこと?
何それ、そんなことしないといけないの?なんで?聖女だから?
「怖がることはない。転移者は全員やることだ。莫大な魔力と費用を使って行う召喚の儀が無事に成功したことを国王に証明、報告するんだ。こちらにいる転移者たちは皆、転移後すぐに行っている。本当なら、この世界について簡単に説明したり、貴族の前でのマナーなんかを転移後1日かけて教えてからのお披露目なんだが、何せ時間がなくてな‥‥‥これ以上は引き延ばせそうにないんだ。急で申し訳ない」
「国王?!」
「だーいじょうぶ!普通の転移者だったら無礼なことしたら何されるかわかんないけど、咲久ぴょんは聖女だもん。なんなら貴族より偉い立場なわけだし、多少やらかしてもなーんも言われないっしょ!」
「え、いや、でも、ちょ‥‥‥!!」
抵抗する間も与えられず、わたしはレミと高野に両手を引かれ、国王の元へと連行されたのだった。
お読みくださりありがとうございます。
投稿、かなり間が空いてしまいました。
めちゃくちゃインフルでした。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!




