いなくなった
アパートに着いた頃にはすっかり陽が傾き、街は真っ赤に染まっていた。
陽が暮れるまでに帰れてよかった。
部屋から出ないとはいえ、咲久を1人にさせるのは心配すぎる。
まあ、欲を言えば朝も昼も夜もずっと咲久の側についていたいし、私の目の届く範囲内でだけ行動してほしいけど、流石の私もそんなことは口には出さない。
他の誰にどう思われても構わないけど、咲久に引かれたり嫌われたりするのは嫌だ。
‥‥‥咲久、外から鍵かけたことに気がついて怒ってるだろうか。
いや、でも、そのことに気がついたということは、外に出ようと試みたということだから、そのことを問い詰めて逆に私が咲久を叱る立場に回れば、咲久ももう私に何も言い返せないだろうから、問題ない。
「咲久ー、帰ったよ」
ドアをノックして声をかけるが、返答がない。
ー鍵のことで怒ってるか、眠っているか、どっちかかな。
私は「咲久ー?」と再び呼びかけながら、ゆっくりと扉を開けた。
その途端、びゅうっと、夜を迎える前の、冷たく軽い風が私の体を撫でた。
カランカランという、鳴るはずのないガラスの音が部屋に響く。
「は‥‥‥?」
割れた窓ガラスから、風が絶え間なく部屋を吹き荒らしている。
風呂もトイレもない、狭すぎるワンルームだ。
そこに私の帰りを待っているはずの咲久がいないことは、ひと目で分かった。
言葉を失って、ふらふらと部屋の奥へ進もうと足を前に出すと、ぱりんっ、という音がして反射的に、音のした自身の足元に視線を移す。
窓ガラスだったものが、床に散らばっていた。
こんなふうに部屋にガラスが撒き散らされているということは、外側から何者かが相当な勢いで窓を突き破って、この部屋に侵入したのだろう。
喉の奥が、ひゅうっと鳴る。
うまく、呼吸ができない。
「ちょ‥‥‥待ってよ。ふざけてる‥‥‥ふざけんな‥‥‥!!咲久!!咲久どこ?!」
私はガラスを踏みつけて進み、ベッドのシーツをめくり、枕を床に放り投げ、ベッドの下や僅かな家具の隙間まで、名前を呼びながら探した。
部屋を隅々まで探し終えて、ガラスまみれの床に、私は膝から崩れ落ちる。
「律ちゃん咲久ちゃーん?晩御飯食べに行きましょー‥‥‥って、あら?!」
「うおおっ、何事だこりゃあ!!」
「ええ?!大惨事じゃんか、部屋の中!一体どうしたの?!」
「‥‥‥ってか、あんただけ?咲久は?」
依頼から戻ってきたであろう聞き慣れた4人の声に、私は窓に向かって膝をついたまま、ゆっくりと4人の方へ振り向いて、自分でも驚くほど消え入りそうな声で言った。
「いなくなった」
4人の肩が大きく揺れ、表情は驚きから焦りに変わった。
アンリーヌが迷いなく向かってきて、すぐに私を抱きしめた。
「大丈夫よ。何が起こったのか、どこにいるのか、大体検討はつく。絶対に取り戻せるわ」
アンリーヌに力強い声でそう言われ、私はハッとして、気を取り直す。
そうだ、こんなところで絶望している間にも、咲久が危険な目に遭っているかもしれない。
一刻も早く助けに行かないと。
「ありがと、アン姉。ごめん、取り乱してた。もう大丈夫」
私は立ち上がってそう言うと、皆んなに頭を下げた。
「咲久を探しに行く。でも、私じゃ咲久の居場所も、会いに行く方法もわからない。力を貸してください、お願いします」
私だけじゃ、まだ咲久を守りきれない。
その事実があまりにも悔しくてもどかしい。
3秒ほどに沈黙が流れ、背中に強い衝撃を感じた。
ゴルドが私の背中を叩いたのだと理解するまで数秒かかった。
「何当たり前のこと言ってんだ!そりゃあそうするに決まってんだろ!
私が顔を上げると、4人揃って大きく頷いた。
「そうと決まればすぐに取り掛かりましょう!とにかく、こんな大惨事な場所じゃ話しもできないわ。一旦落ち着いて座れる場所にー」
「ねえ、待って。あれ見て。机の上、なんか紙置いてあるけど」
ヨナの言葉に、全員の視線が机の上に集まる。
本当だ、どうして気が付かなかったんだろう。
私は突っ込むように机に向かい、食い入るように紙を手に取った。
「これ、咲久の字だ」
お読みくださりありがとうございます!!
今日エイプリルフールだ。
嘘ついていいのは午前中だけらしいです。
毎年、何か嘘つきたいなあと思ってても、結局嘘つくの忘れちゃって午前終わってます。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!!




