妄想と現実
「タカノン‥‥‥?」
「そ。転移者の管理官で、わたしたち転移者を統括してる人だよん」
「なるほど‥‥‥」
「あはっ、警戒心むき出しでウケる。だーいじょうぶだよ、咲久ぴょん。タカノンがこの世界で唯一レミたちの味方だから」
唯一?
確か、アン姉から聞いた都市伝説では、転移者は魔力量が多い分貴重な存在で、あくまで最終兵器といえど、重宝されているって印象だったけど、そうでもないのだろうか。
だって、なんてったって都市伝説になっているような存在なのだ。
わたし的には、貴族街に来たら、お姫様のような扱いを受けて、めちゃくちゃチヤホヤされるのではとか密かに妄想していたんだけど、なんだかそんな感じではないっぽい。
いやでも、こんな広い部屋を与えられているのだから、やはりこの世界では転移者はかなり良い待遇を受けているんじゃ‥‥‥。
「わたしも、こんな感じの部屋を与えられて住むことになるの?」
「レミの部屋はね、特別なの。レミ、転移者の中でも超優秀で最上位クラスに所属してて、最終兵器のそのまたさらに最終兵器って感じのポジジョンにいるわけ。レミの他にも最上位クラス所属の転移者が3人いて、その子達も同じ部屋を与えられてるけど、それ以外の転移者はみんな学校の寮で暮らしてる。4人部屋で、部屋狭いからベッド四つ置いたらもうほぼスペースなくて最悪なんだよねー、その部屋。レミ耐えられなくて、1人部屋欲しくて最上位クラスまで上り詰めたといっても過言じゃないし、あはっ」
この国の、貴族街における転移者の立場って、もしかして結構下‥‥‥?
あまりにも先が思いやられる情報に心底不安そうな表情でいると、レミがまた「あはっ!」と笑ってわたしの背中をバシバシ叩いて言った。
「だーいじょぶ!咲久ちんは聖女だよ?この国の命運は咲久ちんにかかってるんだよ?他の転移者の何億倍も良い待遇受けるっしょ!てかもはや良い待遇超えて、四六時中監視されて、1日のスケジュールも全部管理されて、食べるものもー」
「え、ちょ‥‥‥冗談だよね?!」
「あはっ!」
「あは、じゃなくて、ねえレミさん?あのー」
「よーしそろそろタカノンのとこ行こっか!」
「い、嫌なんだけど!嫌なんだけど?!」
レミに腕を掴まれて、半ば引きずられるように、わたしは連行されたのだった。
***
「問題ねえな」
ザースの声で、私は硬いベッドからもそもそと起き上がる。
「早かったね。もういいんだ?」
「おう。もう完全回復してやがる。あんだけ魔力取られたってのに、昨日の今日で既に体にえげつない量の魔力が満ちてる。バケモンなんじゃねえのお前」
「はは、どうも」
それ系の悪口は、こっちの世界に来てから言われ慣れてしまった。
それに、咲久を守るために強ければ強いだけいいし、なんならもっと強くなりたいので、バケモノとか言われてもまんざらでもない。
「気持ちわりい、何笑ってんだお前」
バケモノと言われて喜んでいたら、ザースにドン引かれてしまった。
私は軽く咳払いをして表情を引き締めると、ベッドを降りた。
「じゃあ行くね。咲久、留守番させてて心配だから」
「あ、おい待て。魔力完全回復してんだ。今日から魔力提供に協力してもらう」
帰れると思ったのに呼び止められて、私は軽く舌打ちをする。
「んな顔したって俺には効かねえぞ。約束はちゃんと果たしてもらう。どれだけお預けされてると思ってんだ?え?」
「あーはいはい分かった分かった。早くしてね」
魔力提供は、採血とよく似ている。
針を腕に刺すと、黒色のものが透明のチューブを登ってゆき試験管のような物に入って、その試験管が黒色で満たされると、ザースが封をして、新たな試験管に取り替える。
この黒いものが魔力で、その色はその人の魔力の特性によって変化するらしい。
ザースはこの前、「黒い魔力は初めてだぜ!」と何やら興奮していた。
「咲久とかいう奴は、留守番もろくにできねえのか?やけに気にしてるようだが」
「いや、流石に今日は大人しくしてると思うんだけど。かなりしつこく部屋から出ないように言ったし、物理的に出れないようにもしてきたし」
「あ?物理的に?」
「外から鍵かけてきた」
私がそういうと、ザースは先ほどよりもさらにドン引いた表情で、「そうか。やべえなお前」と言って、針を抜いた。
「規定の魔力量はもらった。また数日後にこいよ。定期的にきて魔力提供するって約束、忘れてんじゃねえぞ」
「はいはい分かってるよ」
私はザースに雑に手を振って、咲久の待つアパートへ向かった。
お読みくださりありがとうございます!!
ついに今年もインフルにかかってしまいました。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!




